1619を知ったのは高校生時代、東京ラジオデパート1Fの中古球屋のオヤジさんが「これは6L6のメタル直熱管だよ。」と紹介してくれた時でした。

6L6にしては値段も安く、面白そうなので買ってから調べると、ヒーター電圧を初め色々と違う別物でしたが、これはこれで色々と楽しい球でした。

但し正確には6L6の回路に組み込み動作させたら、何かとんでもないことが起きているようなので慌てて電源を切り、それから調べ始めたと言ったほうが良いでしょう。


      


しかし中古球屋などというものはそもそも怪しげで、混沌とした秋葉原部品街の一部なのですから、「ダマされた!」などと思うのは間違っています。

「オジサンあの球、どうも6L6とは違うみたい。」「アーそうかい。・・・で、どんな球なんだい?」こんな感じですし、アマチュア無線のグループが本気でクレームを言っていた時など、「この人たち、何をやってるんだろ?」と思ったほどです。

そして最近また巷に1619が出始めました。そんなある日 ebay にて50本のまとめ売りを見つけ、買ってはいけない、絶対いけないと思いつつ、結局買ってしまいました。その最大の理由は、この綺麗にそろった5極管特性です。





このような球は往々にして、3極管接続特性も良いものが多いのです。何故ならばGm特性は5極管でも3極管接続でも第2グリッドに強く影響され、その傾向が同じになるからです。

だからといって50本は多過ぎましたが、早速届いたものをカーブトレーサー計測してみると、やはり70年以上の眠りは永く、電流特性が普通ではありません。

この辺りの特性変化はチューブチェッカーでは出ないので、ヤフオクでで「OKでした。」などと提示されたものでも、その差は6L6と1619どころではないかもしれません。

これは宣伝ですが、1619は私のような人間がヤフオクで出品した時に購入するのが、安全でしかも価格も安いでしょう。

そこでカーブトレーサーを使い丁寧にエージングを重ねて元に戻した球の様子をみると、予想通り素直な良いカーブです。ただしバイアス電圧マイナス80Vあたりで、若干のループが見られます。

このループは今後のエージングで消えるのか、もしくはフィラメント電圧を2V程度まで下げた方が良いのか要検討です。というか、ここまで計測するのはちょっとやりすぎでしょうか。


             


3定数は下のようになりました。真空管ブームにおいて、こうした下調べが当然になれば、真空管にまつわる迷信も減少するかもしれません。ただよほど不合理かつ歪曲的なことでなければ、迷信や錯覚はそのままにしておきたい気持ちもあります。


             


シングル動作でプレート損失ギリギリの場合出力3Wとなりますが、規格表を見ると5極管シングル動作も同じ3Wとなり、これでは明らかに欲張りすぎでしょう。


             


そこでプレート電流を25mAまで下げ、負荷抵抗を20kΩまで上げた、プレート12,5W入力のプランが浮上しました。出力は2,5Wと減るものの、リニアリティーは向上します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ところで最近、3極管接続というのは、規格表を基本に設計したのではあまりに情けない数字で、HVTCを基準に考えないと面白くなさ過ぎるのではないかと思えてきました。

今日の3極管接続に対する理解段階とは、「プレートと第2グリッドをつなげると3極管特性になる。」という地点で止まった、まさに足踏み状態にあるといえましょう。

もし研究が進めば、「3極管接続とは、プレートと第2グリッドを接続し、5極管接続に匹敵する3極管性能を出すものである。」と定義づけられることでしょう。

そこで、こうした研究を「3極管接続学」と呼ぶことにします。尚この学問上では、5極管接続時の最大第2グリッド電圧は5極管用に限ったもので、3極管接続とは無関係の数字とされるでしょう。

逆に言えば「3極管接続学」において、基本性能を充分発揮させるHVTCこそが本来の3極管接続を示し、ごく当然の使用法になるというわけです。

そう考えると、どのような球の実験でもHVTCが間違いなく成功してる理由がわかります。

ですからHVTCが新しいのではなく、本当の3極管接続が実はHVTCだったという事になり、この理解が真に広まった時、「HVTC」は死語となります。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


             


話を戻しますが上の図はパラシングルを前提にしたロードラインが引いてあり、最終的にトータル5W出力を目指すプランです。またダンピングファクターは5程度となるでしょう。

主観的ながら無帰還で最大出力時に歪み3%以下、ダンピングファクター3以上というアンプの音は、新鮮な有機野菜の味がするとでも言いましょうか、HVTCに限らず3極管でものびやかで爽やかで、しかも出力管の持つキャラクターが楽しめます。

ところが規格表の数値では、なかなかそこまで辿り着けません。そのため昔のレシピから離れ、規格表無視の高電圧、高負荷抵抗による純粋な味わいを求めてしまうのです。

他方アンプを作る際には、安易にプラス側までスイングできる強力なドライバーは使わない、5極管接続時に第2グリッドを安定化しないなど、新たな常識に対応できる柔軟な姿勢も必要です。

例えば規格表を見ると5極管では最大出力時、急激に第2グリッド電流が増加するとわかりますが、だからといって安定化せよとは書いてありません。

しかしここを安定化し、第2グリッドをもっと働かせると、せっかく用意されたレギュレーション悪化による休憩所を撤去したことになり、第2グリッドは更なる過酷労働へと追いやられます。


      
          1619ではありませんが、Ig2のわかりやすいサンプルとして、6LQ6を表示します。


つまり第2グリッドに関しては、都市伝説まがいの耐圧に対する心配より、一見正統派を気取りながら、まるで労働者をこき使うようなことを、安定化と称して行っていると気づいて欲しいのです。

真空管マニアは真空管に大出力を求めているのでしょうか、いないのでしょうか。そこには2枚舌という言葉が漂っている気がして、思わず「酸っぱい葡萄」の話を思い起こします。







つづく



.