冷却キャビティの実力はいかに
温度計測を行うということは、設計電圧をプレートにかけ、設計電流を流すという事で、この時点でこの球はHVTCが可能かどうか判明します。

結論から言うと全くOK です。温度計測をする約1時間半ほど、プレートとG2には1100Vをかけ、電流を90mA流し続け、その後さらに6時間ほど放置しましたが、4CX250Kはビクともしませんでした。

ちなみにその際エージングは行っていません。というのも今回バンテックから購入した4CX250Kは軍用品らしく缶詰で販売されていますが、はたして戦地でのんびりエージングを行うのだろうかというギモンがあったからです。

この時のプレート入力99Wにおいて電流は非常に安定しており、強い信頼性すら感じました。肝心のラジエーター温度については上限の220℃に対して150℃あたりを予想していたところ、下の表のように意外な結果となりました


  


今回もリチウムイオンバッテリーによる冷却バックアップを行うため、ファンの電圧として9,5〜10V近辺を予定していました。ところが温度計の表示が全然上がりません。

最初はセンサーのエラーだと思いましたが、半田コテに向けると280℃前後と表示されることから、予想以上にうまく冷却されているようなのです。

そこで静寂性を優先しようと7Vあたりまで電圧を下げた時、やっと100℃越えという状態でした。実際この電圧ではかなり静かな一方、なにやら焦げ臭いようなニオイがしてきました。

その後計測及び経過観察のためしばらく通電し続けた後球をはずしてソケットを見ると、G1端子やG2端子付近のベーク板に高温で焦げた痕が見えました。異臭の原因はこれだったのです。


                   


一般にベークライトの変化は150度付近で起こるとされているので、この部分が200℃以上であったと推察でき、この事からどうやら現設計ではラジエーターこそ良く冷やすものの、G2付近の通気性能があまり良くないと理解できます。

これでは実用に耐えられないので、初代ソケットは測定用にとどめておき、2代目ソケットの設計に移ります。ここまでの実験で分かったのは、下から上へ吹き上がる全身冷却機能を持った、例えば下半身チムニーのような物が必要だということ、そしてラジエーター温度だけで判断しては球を傷めるということです。

早速下の図のようなチムニー付きソケットを設計しながら、やはり4CX250Kの使いこなしは甘くないと感じました。というかあまりイージーに進むのもつまらないものです。ベーク板やりん青銅板は安いので、手間ヒマ作戦でなんとか乗り切りましょう。


           


と思いつつ焦げたベーク板を眺めながらソケットをバラしている時、ここまで熱が集中するのなら、いっそこの部分をアルミ板で作りG2用ラジエーターにしてしまえば、チムニーなどよりも遥かに効率よく冷やせるのではないかと思い当たりました。

確かにこの部分はファンに近く、けっこう強風地帯なのです。さらに課題だったヒーターのセンターピン用電極は、4mmアルミパイプを加工すれば対応できる事に気付き、球の固定がしっかりした物になりました。こうして各プレート間の通風スペースを空ける様にリメイクしたのが下の写真です。


       


下の図で用いた2,4mmのドリルはアキハバラデパート入り口の工具屋さんで売っていました。ここが問題で2,5mmでは大き過ぎ2,3mmでは小さくてピンが入らない微妙な部分でした。また肉厚1mmのアルミだからこのような加工が出来たので、0,5mmの真鍮パイプなどでは不可能でした。


         


一方2πファンは周囲に何もなければかなり静かな反面、キャビティに収めるとそれなりに風切音が出始めます。よって抵抗による簡単なドロップ回路では、バッテリーチャージ中とチャージ終了後で抵抗に流れる電流差が発生し、それによる電圧変化で騒音レベルが変わってしまいます。

そこで風量と騒音の兼ね合いを考慮した結果、下の図のようなレギュレーターとダイオード入りの回路を付けることにしました。騒音計によるファンの騒音は10cm離れたところで40デシベル(目安は図書館、市内の深夜、昼間の静かな住宅地とある)ほどです。


     


こうして再び温度を計測したところ、90℃近辺で安定した動作となり、電源OFF後のバックアップ冷却状態は1分後で60℃、2分後で50℃、4分後にはほぼ体温程度となりました。

また動作中G2に接しているアルミプレートの温度を測ると、ほぼプレートと同じ温度が表示され、全体が効率良く冷却され始めたようです。

かつてMJ誌にスベトラーナ製オーディオ用X管3CX300A1によるシングルアンプ製作記事が載っていましたが、プレート入力45W時でラジエーター表面温度が145℃とあり、しかもブロワの騒音が今後の課題であると書かれています。


    


それでもこの作者は温度にまだ余裕があると思いプレート入力を75Wまで上げたところ、球が動作停止してしまったようです。ところが規格表の使用温度の項目を見ると、ラジエーター表面の温度ではなく、セラミックやメタル部分全体の温度について規定していることがわかります(※)

上記の製作例ではシャーシの底板にブロワを取り付け、専用チムニーにより普通に排気冷却していました。しかし安易な冷却プランは騒音と非効率な冷却状態を生み出すため、このような記事ではなおさら強制空冷に対して気持が引いてしまうでしょう。

今後はケミコンに対するケアも含めて「真空管アンプは熱くなる物」と居直らず、静かな強制空冷をアンプ作りの一部として考えようと思いました。特に2πファンをシャーシに沈み込ませる使用法は色々と活用できそうです。

その場合、空気取り入れ口の直径は62mmが良く、これはちょうど油圧式シャーシパンチの規格に適合しています。この静かなシロッコファンは2012.3.2現在ヤフオクで4個2000円の出品があり、アキハバラデパート3Fでも1個620円で大量に見ました。ただし周囲を取り外す簡単な改造が必要です。

ともあれ、これでやっとアンプ作りの下準備が整いました。いよいよ最終段階へ突入です。

   つづく







1 オーディオマニアに不人気なX管を思う
2 ついにベールを脱いだ4CX250K-HVTCの実態
3 冷却キャビティの実力はいかに
4 4CX250って、こんなヤツだったんだ・・・。
5 X管によるHVTC最後の仕上げ