歪率は1Wで0,38%、10Wで2,5%、12Wで3,2%、15Wで4,8%となりました。
しかし、これが6C33のリニアリティーでは無いことが、すぐに判明します。
それにしてもこの球のバラつきは大問題で、漫然と使用すると、トータルの動作条件がプレート損失内でも、片方のカソードだけ大量に電流が流れている可能性があります。
もし一般の方がこの球をオーディオ用に使うなら、この球の音質をウンヌンする以前に、まず片方づつヒーターを点灯し、シングルカソードで各々のプレート電流を計測すべきでしょう。
それでなくとも、この世界は「アンプの前に十字架をかざすと音が良くなる。」といった話が満載ですから。
6AU6のドライバーは6C33に接続された動作状態で170倍というゲインがあり、50V出力時3%の歪となっています。
また120V以上の出力電圧を取り出せますが、このとき歪は8%を越えています。
ところが、例えば10W出力時、ドライブ電圧は114V必要でそのときの歪が7%なのに対し、トータルの歪は2,5%に収まっているのです。
これは当初の予想以上に、都合よく歪の打ち消しが行われていることを示し、非常にラッキーだったといえます。
ちなみに114Vは、かなりクリップ状態の波形なので、ピークが1,4倍の160Vまで出ているわけではありません。クリップ波の極限である矩形波では、ピーク値と実行値が等しくなるのと同様の原理です。
下の図がトータル及びドライバーの周波数特性です。ドライバーよりもトータルのほうが高域が伸びているのはドライバーの出力インピーダンスが高めなため、測定ケーブルの静電容量の影響が出ているせいです。
ピーキングコイルの効果は抜群で、もともとはテレビの映像増幅回路など、広帯域の増幅回路に用いられる技術ですが、NFBなどと違い中域のゲインを変えることなくワイドレンジにしてくれます。
いずれにしても直流専門のパワー管と小信号専門のミニチュア管というデコボココンビが、アウェイのフィールドで精一杯がんばった結果をご覧ください。
残留雑音は0,25mVとイケてるものの、ダンピングファクターはあまり伸びず2,3でした。
−140Vというバイアスの深い条件では、意外にもこの球は1KΩ以上の内部抵抗になっているのでしょうか。そこで別の観点からみてみます。
私の行うON-OFF法ではOFFの時、つまり無負荷時は抵抗値=無限大で、ロードラインが水平になりますが、これに、かなり深いバイアス部分で、横に寝てしまった特性曲線が重なると、高い電圧が発生します。
これは、その部分で、高い内部抵抗が観測されたということになり、その結果、内部抵抗の高い部分と低い部分の平均値として「DF=2,3」という数字が出た訳です。
もともと大電流領域が主役舞台である6C33Cのような球は、μの値が以上に高くならない、グリッド入力電圧の適正範囲内でDFの測定を行うべきでした。
音質はクリアーそのものといった感じで、このような音質が得られた理由は、歪の成分が2次、3次の高調波と言うより、打消しによって残ったヤクザな倍音が、偶然にも功を奏したせいだと推測しています。
今回直流界から、わざわざオーディオエリアまで足を運んでもらった以上、バラつき覚悟のウヤムヤで電力合成を行うダブルカソードとは、アンプに対する基本姿勢を異にしたいという思いもあり、シングルカソードのアンプとなりました。
前に述べた心理トリックや、「そないやるの、誰ーれもおらへんがなー。」という巷の実状もあり、なかなか踏み出しにくい行為とは思いますが、これは電気的にもオーディオ的にも精神的にも大変スッキリとした、6C33C本来の音を浮かび上がらせる手法ですので、ぜひ思い切ってやってみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、2枚プレートの2A3が45にどうしても勝てなかった理由は、このあたりにあるのかもしれません。
また6AU6との打ち消しコラボも、邪道ながら捨てがたいものがあります。ともかくワイドレンジでうるさくならず、明るく元気な音ですから、この文面を書いている私のように、食道ガンを宣告されて「鬱」になった人にもオススメです。
その後ユーザーからカラーリングの変更依頼があり、さらに2πファンなども取り付けたリメイク版が下の写真です。
ファンはリチウムイオンバッテリーによるバックアップ冷却を採用し、メーターはB電圧監視用です。後からの塗装は、マスキングなどでやはりなかなか大変でした。