構想から1年以上たって、やっとこのアンプも完成の日がやってきました。
まずファンのバックアップですがこれにはリレーを使うのではなく、9Vの006Pタイプのリチウムイオン電池を使うことにしました。つまり動作中にチャージを行い、電源OFF後はバッテリーでファンを回し続けるのです。
この方式の特徴は、まず非常に安価で単純な仕組みであること。そして停電やパワーディストリビューターなどによる電源OFFでも、その後20分間確実に冷却し続けることで、これが温度に弱いアクリルチムニーにとって、とても大切と言えます。
このような方法は一昔前だったらとても不可能だったことを思うと、今は球だけでなく、周辺素子のインフラにも恵まれた素晴らしい時代だと感じます。ぜひ皆さんもお試しください。
写真を撮るため電源コードを外したが、ファンがなかなか止まらないので回したまま撮影。
写真では中央に2つのファンが大きく写っています。そしてケースの左側面に取り付けられているブルーのバッテリーがファンのバックアップ用です。赤や緑の端子はプレート電流測定用端子でテスターリードを差し込んでバイアスボリュームをじっくり調整出来るようになっています。
また6AU6はファンによるスペースの都合で、シャーシ上ではなく内部のL型アルミパネルに横向きに取り付けてあります。つまり外からはFU29(829B)しか見えません。とは言えヒートシンクで作った水直2気筒エンジンのようなのプレートキャップと、初お目見えのアクリルチムニーが充分な存在感を出しています。
特性は下のようになっていて、いろいろ苦労した結果から言うとFU−50の方が楽で良いかもしれません。最大出力は計算どおり12W、ただし15Wでも3,6%で収まっており、ダンピングファクターは2,5、残留ノイズは0,15mVです。
実際の製作実験ではFU‐29のカソード抵抗はやめました。これは共通カソードにより直流的に2つのユニットが差動的動作をして、両ユニットの直流アンバランスが起こりやすいからです。
またプレート電流もプレートの赤化が起こるため無信号時で各ユニット毎30mA程度に抑えました。つまりプレート損失は17Wです。それでも予定通りの出力が得られています。
いずれにしてもこの球による540VのHVTCは異常なく動作することがわかりました。これはG2の定格に対し2倍以上の電圧となっています。
音質は似たような回路を持つFU-50との比較で、女性らしいなまめかしさが減り、ややエッジの効いた男性的な音に近づきました。残響感も増えています。
動作中のアクリルチムニーの温度は36〜42℃、真空管のガラス表面でも50℃に収まっていて、冷却はかなり効率よく行われているようです。
ところが今回採用した大型フィンのプレートキャプは140℃前後とかなり熱く、チムニー上部が絞り込まれていないストレートタイプのため、風がうまく当たっていないようです。
試しに風が当たるようにプラ版などをかざしてみると数秒で70℃台に下がりますので、チムニー上部にりん青銅板による小型風向舵を取り付けることにします。
風向舵はうまく取り付けないと真空管の抜き差しに差し障りが出てしまう恐れがありますので、取り外し可能な物とし、これにより短時間ならプレートキャップに触れられるくらいになりました。一方ファンは大変静かで2πファン以下です。
この球の使用例を見ると自然空冷の上、簡単なプレートキャプで済ましているものが多いようで、温度管理に気を使いたくても、なかなか強制空冷には踏み切れないようです。その理由はシャーシのレイアウトや加工がメンドウ、騒音が心配、の2点があげられます。
しかし現在はパソコンのおかげで良いファンが出回っていますので、多いに利用すべきでしょう。また20年前の物価で数万円もした油圧式シャーシパンチが5千円台で購入出来るなど、真空管アンプを取り巻くインフラはどんどん新しくなっているのです。
ともあれこのアンプは構想期間が長かっただけにHVTC、リチウムイオン冷却バックアップ、アクリルチムニーファン一体型ソケット、6AU6高圧ドライバー、ヒートシンク改造プレートキャップと、私にとって新しい試みがてんこ盛りの作品になりました。
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