CSPP(クロスシャントプッシュプル)と聞いた時は「何だ、ソレ?」程度の関心でしたし、回路図を見ても複雑なので「・・・あ、これはムリ!」と知らないふりをしてきましたが、改めてサイトを覗いてみると、そこには根強いファンがいるではないですか。

全体から受け取れるのは、バックロードホーンやOTL以上の原理主義的マイナー・アンド・ディープ感で、MFBなんかが近いかもしれません。しかし、逆にそれが楽しいのではないでしょうか。

早速おさらいをすると、基本的な回路は下図のようになると思います。2組の真空管回路が独立していながら、共通のOPT1次コイルにそれぞれ逆方向の電流を流し、コアの直流磁化を防いでいます。

このような手法は、コンセントからトランスを経て整流する現代でこそ珍しいものの、B電池とグランドフリーの入力トランスが一般的だった真空管の黎明期では、ごく自然な発想だったのでしょう。


      


ちょうど左側の球のプレート端子が右側の球のグランドとなるよう、クロスしてシャント(*)しているので、グランドを共有すると、OPTの両端がオーディオ信号的にショートされてしまいます。

*シャント (shunt) とは、血液が本来通るべき血管と別のルートを流れる状態のことである。

つまり入力信号源も電源も、グランドを共有することができません。これではCR結合回路やエリミネーター型、つまりコンセントから電源をとる機器では不便ですし、フロート電源というのは静電ノイズに弱いのです。

そこで頭のイイ人がカソードをフロートして、電源を共有できるようにしたという回路が下の図です。信号源は共通グランドではありませんが、共有のB電源で構成できるメリットは大きいと思います。


      


カソードをフロートすると少し複雑に見えますが、下図のように片側の球だけで考えて変形すると、P-K分割回路のようなものだと理解でき、カソードで発生した同相電力はコンデンサーでプレートと反対側のOPT端子に返しています。


  



ただしカソード側は負荷が並列になっているため、最低でも負荷の2倍程度のインピーダンスが、カソードチョークに必要でしょう。





また信号源は共通グランドに出来なくは無いのですが、カソードに発生している出力電圧により、ゲインの低下が起きてしまいます。

さらにカソードチョークのインダクタンスを効率的に活用できるよう、2個の独立したチョークコイルではなく単一のPPタイプ(センタータップ付き)にすると下のようになります。


      


ここまで来たらカソードで発生した電力をコンデンサーでで返すのではなく、電磁結合にしてしまえば、カソードチョークのコアとOPTのコアを共有出来ます。

その際チョークとOPTのコイルの結合を強めるため、両方のコイルを一緒に巻くバイファイラ巻きという巻き方を使います。


      


さらに入力端子を、電源と共通のグランドとしてしまえば、カソードに発生している出力電圧分ゲインが下がるものの、増幅回路としては、より実用的になります。


      


一方これを5極管で実現するには、プレートと反対側のOPT端子がカソードと同じオーディオ信号レベルなので、G2配線をクロスさせれば、G2電圧供給には問題が無くなります。


      


このように一般的なCSPP用のOPTでは、2重巻線(バイファイラ巻)のコイルが重要なため、汎用性という点で普及しにくかったと言えます。

さらにバイファイラ巻線はそれぞれプレート、カソード用ですが、両巻線間の絶縁が電線のエナメル皮膜だけなため、ライントランスとは異なる高い電位差をどうするかという、線材選びの課題も残ります。

またP-K分割出力回路により、ドライブ電圧が大きくなるという点では、B電源500V以下を前提としている管球アンプの現状から、別の対策が必要でしょう。


つづく





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その1  CSPPとは