勝手にヒーター電圧を下げて良いのか心配なのは、多くの球がヒーター電圧の範囲をプラスマイナス10%以内、場合によっては5%以内としている点です。

一部ネット上には低すぎるヒーター電圧はカソードやフィラメントに悪影響を及ぼすという記述がある反面、ラジオ技術社の真空管マニュアル(P4)では

「ヒーター電圧の低い方は、使用にさしつかえないかぎり、あまり悪影響はありませんが、上記の範囲以内で使う事を希望します。」(原文のまま)

となっています。その後、トリエーテッドタングステンフィラメントは、定格以下で使用すると重大な寿命低下を起こすと言うことを、このサイトをご覧の方から教えていただきました。

そして教えていただいたサイトに載っていたのが下のグラフです。(オリジナルPDFはこちら)


 

これによるとフィラメント電圧85%で動作させると、200時間しか持たないことになり、定格寿命の12,5%時点ではエミッションがガックリと低下しています。

また、同サイトは下のようなグラフも掲載していて、例えば4−400Aをフィラメント電圧4V、プレート電圧2000V、プレート電流100mAで動作させた場合、縦軸の数値であるアンペア/ワットレシオ(Ib/Wf=0,1A÷50W=0,002)となります。

つまり厳しいAMのカーブにおいても「GOOD」の上方、A級アンプ同様電流変動の少ないFMなら「EXELLENT」よりさらに上位の領域に収まっているのです。


     


一方タングステンに塗布されているにトリウムという元素の性質を見てみると1400℃で性質が変わり、1700℃が融点とされるため、トリエーテッドタングステンフィラメントは1500℃近辺の狭い範囲で使用すべきだと考えられます。

ここから先はあれこれ考えるより、まずは計測でしょう。具体的には811Aを定格より20%低い5Vで点火し、アンプを動作状態にします。

そしてそのまま数ヶ月間放置した時のプレート電流を、1週間、つまり168時間ごとに調べた結果が下の表、及びグラフとなり、この計測で2000時間経過した後、マイナス24%です。


時間 (hour) 0 168 336 504 672 840 1008 1176 1344 1512 1680 1848 2016 2184 2352 2520 2688 2856 3024
Ip (mA) 54 53 52 52 52 48 48 46 43 42 43 42 40 40 40 50 52 52 52
割合(%) 0 -2 -4 -4 -4 -12 -12 -15 -21 -23 -21 -23 -24 -24 -24 -8 -4 -4 -4


ところで下のグラフにおける段階的な変化を見て感じたのは、カソード劣化というのは、全体的にだんだん進行してゆくアナログモードではなく、弱い部分から少しづつ壊れて行き、それが全体的に:広がってゆく、デジタルモードでは無かろうかと言う点です。





とりあえず2000時間までをミクロのデータとして、横軸の時間値を大幅に縮小し、長期マクロ予想を行ったグラフが下になります。

実際にはプレート電流の推移が直線的に減少するとは限りませんが、約1万時間という寿命が一応の目安となり、仮に50%を実用範囲とすれば、4000時間(毎日2時間動作で5,年半)が予想実用期間となります。

この程度ならば、フィラメント電圧を20%減少させた事による、急激なフィラメント性能の低下が起きているとは考えにくく、アイマックの2つ目のグラフにある、アンペア/ワットレシオにおける「エクセレント」という条件が利いているのかもしれません。





ところが2500時間以降で急に電流が増えしまい、これは全く予想外です。長時間のエージングで内部が活性化したのでしょうか。尚バイアス電圧の変化はありません。

3000時間でマイナス4%ならば寿命は20000時間以上となりますが、こうした事が起きた原因究明は後日行います。





さらに3300時間経っても解釈不能な状態は続き、3500時間経過後、なんと初期の数値に戻ってしまいました。この現象は5000時間でもそのまま継続し、つまり劣化無しというわけです。

寿命の定義は知りませんが、仮に電流値が半減した状態として、「寿命が10000時間」と表示した場合の減衰線を点線でグラフに加えてみました。

この後いきなりガクッと落ち込むのか、今後が楽しみですが季節は変わり、夏日が続く中で24時間つけっぱなしのアンプでは、そろそろ暑苦しくなってきました。

よって2014年の11月から始まったこの実験は、2015年5月でひとまず終了したいと思います。





不思議な現象はともかく、今回のテーマ「トリエーテッドタングステンフィラメントの低電圧動作による性能劣化」はオーディオA級動作において無視できると、この実験結果は物語っています。

また文献によると、送信管でも正常に設計された機器で使用すれば10000時間,、場合によっては20000時間程度、寿命を保てるようです。オリジナルPDFはこちら

ただしこれらはトリエーテッドタングステンフィラメントではありません。


  














.
目次へ
トリエーテッドタングステンフィラメントの実態