永年特性カーブを計測していると、多極管の中には、3極管接続時に極めて素晴らしい特性を発揮するものが多くあることに気付きます。

しかし真空管をどう使おうがそれは所有者の勝手であり、真空管にまつわる迷信や誤解も含めて、UFOや怪奇現象同様、他人が口をはさむ余地はありません。

例えば「電流をタップリ流してやると豊かな音がします。」という決めゼリフは浅野先生の十八番で、そう思いながらアンプを作ると、確かにそんな気もしてきますし、6N7・B級PPは貧しい音なのだろうかと迷うこともありました。

一方科学的に見るとシングルアンプでは電流増加分インダクタンスが減少し、低域が出なくなるので、「スッキリ」の方が似合いそうですし、811A・B級PPのALTEC1570Bは特性カーブから考察すると、ち密で雄大な音と読めます。

この話はガソリンを満タンにすると発進がよくなるという話に似ていて、車重が増えたにもかかわらず、「実際明らかに良くなった。」と語る人に多く出会いました。この場合、電池の充電が深層心理に働いてるのかもしれません。


               


私などはもっとひどく、ドアのヒンジをグリスアップしただけで、出だしが良くなった気がしたことがありますし、医薬品も厳密なプラシーボ効果のテストが日々行われていて、それほど「おまじない」は効果があるのです。

また整流パーツの性能が上がってヒーターのDC点火が増えると、昔ながらのAC点火の方が音が良いといわれたり、よく考えるともっと昔はバッテリーのDC点火が始まりで、結局無い物ねだりでしょうか。

そういえばキャベツの高騰で不足した時、とんかつ屋では「健康にいいからキャベツをたくさん食べなさい。」という母親が普段になく増えたという話を聞きました。もちろん自分もたくさん頬張ったことでしょう。



                   


バッテリー駆動アンプが良いと騒がれた時、「そうだそう。だ」という記事で花盛りでした。しかし昔からカーステレオはそうして来たのです。

家庭はAC電源があるのに、金と労力をつぎ込んで非日常的なバッテリーシステムを持ち込めば興奮もします。だからどこか違うはずだと思って注意深く聞いたら、いつもと違う音が聞こえてきた。それもあるでしょう。

大切なのは錯覚を起こすことに対し、「自分にはあり得ない。」とか「恥になる。」という感情を持たないことです。錯覚は脳が劣っている証拠でも、脳の障害でもありません。

それよりも錯覚に対し、無理矢理にもっともらしい理由づけをする姿勢の方が、むしろ危ないかもしれません。それが自分に対する軽いウソならまだしも、本気だとしたら問題です。

そして真実のデータというのは、刷新される可能性があるという点も、見落としてはいけません。真実と錯覚の両方をバランスよく持ち、真空管の世界を楽しみたいものです。


                              


付記1 HVTCについて


帰納(きのう)法的推論では、

@HVTCについて書いてある本は無い。
AHVTCの数値は規格表と相違している。
BHVTCを評価するネット情報はほとんど無い。
CHVTCを信じる者は開発者一人しか見えてこない。

よってHVTCは信ずるに足らない。となります。


演繹(えんえき)法的推論では

@第2グリッドの耐圧はMT管でも2キロボルト近く確認できる。
A3極管接続で第2グリッドはロードライン上を動く結果損失は増加しない。
B複数の実作による数年間の試験で第2グリッドの損壊は起きていない。
C第2グリッド電流が大きく増加するのは、5極管接続時の一部の場所のみである。

よってHVTCは十分信ずるに足る。となります。


私としては、HVTCが信じられようが信じられまいが、本当はどうでも良いと思ってます。
それよりも保守的心理が多数を占める環境の方が、自由思考の喪失という意味で、不安と不義を感じます。


付記2 カーブトレーサーのススメ


カーブトレーサーの必要性を感じたのは、送信管ブームなのに3極管接続のデータがなく、、水平出力管の3結によるOTL製作記事では特性カーブが無いまま、どんどん回路図や作品が出てきたときです。

その結果、OTLにおける出力管のゲインに対する考察が置き去りになっていましたし、送信管では多極管のままシングルを作るという、出力規模や見た目以外では、別段電気的に面白みのないものとなっていました。

こうなると益々カーブトレーサーが欲しくなるもので、何も考えず菊水のダイオード用カーブトレーサーなるものをヤフオクで買ったところ、予想と少し違い2端子間の電流特性を測るだけものでした。

その後パラメータであるグリッド電圧を手動で設定し、ポラロイドに多重露出するという手法を思いついたため、かなり測定範囲の広い真空管用カーブトレーサーが出来上がったのです。

そしてカーブトレーサーによる考察により、今までのOTLアンプは出力段のゲインに関して、実態とかなり離れていることが判明し、また多極送信管では、オーディオチューブも舌を巻くほどほど素晴らしいカーブを持った球が、多数発見されています。





グリッド電圧であるパラメータは1周期である点、300V以上の階段波を作るのは大がかりになる点などから階段波ではなく手動としました。おかげで特定中間個所のカーブだけを見たり、バイアス電圧をスイープ出来たりと便利に使えます。

入手機会や設置スペースなど安易にはお勧めできないカーブトレーサーですが、真空管に強い興味を持ち、機会があるならぜひ手に入れるべきでしょう。

ちなみに私の現在の方式は、ポラロイドフィルム(Fuji FP3000B)自体製造中止ですのでお勧めできません。その在庫もあと700枚ほどで、しかも使用期限が過ぎているため、このフィルム専用に冷蔵庫を買って保管しています。




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