前回までで、6DJ8(6N1P)のカスコードでも、ハイゲイン・ハイボルテージで低ひずみのスーパードライバーが作れる可能性があるとわかりました。今回は特性カーブの内容を探ります。


           


まず特徴的な肩特性がなぜ起こるのかを、上の球がが定電圧回路である観点から見ると、供給電圧値の不足による電流不足が考えられます。というのも3極管ではプレート電流はプレート電圧に依存しているからです。

例えば下の図において@からCまで、下側の球にはプレート電圧100Vが確保されていますが、それぞれの傾斜(赤線部分)の左端では上の球のプレート電圧はほぼ0Vです。

そして@を例に挙げると、傾斜の右端になって、やっとプレート電圧が100V近くなり、電流値が安定し始めていることがわかります。

つまり傾斜の部分は下側の球の要求どおり電流を流そうと、必死に頑張っている姿の現れなのです。ですからここではグリッド電流を流してでも内部抵抗を下げているはずです。


          


なんとも捨て身な行為でありしょう。まるで自分は食べずとも、わが子に乳や食事を与える母親のようではありませんか。真空管の世界に、こんな深い絆や情けがあったとは・・・。

そこでこの特性を「母の肩特性」(Mather`s shoulder curv)と名付けました。5極管の角張った男性らしい肩特性ではなく、なで肩になっている点も感慨深く感じます。

しかも、どうせこんな特性は誰も知らず、誰にも活用されないでしょうから、私ごときが勝手に命名したところで何の影響もないのです。それはさておき、グリッド電流を下の図の状態で計測してみましょう。


            


グリッド電流の計測はカーブトレーサーではなく高圧電源によって行います。さもないとスイープした状態では平均値が出てしまうからです

こうして出したEc=0V時のIg2測定値を、カーブトレーサーのグラフに合わせてみると、傾斜の始まる地点から急にグリッド電流が増えていることがわかります。


           


またEc=−1V時のIg2特性も計測しても同様の結果となりました。


           


さらにEg2=160V時のカーブをもう一度見てみると、やはり同じ傾向がはっきり表れ、カスコード接続ではプレート電圧が最低でもEg2の2倍となるように、プレート供給電圧と負荷抵抗の値を設計することが大事だとわかりました。


            


つまり単純に無信号時、上下の球に同じ電圧がかかるようにするのではなく、下の球と同等かそれ以上のプレート電圧で上の球が動作するよう、「ロードライン」を選ぶ必要があるということです。

さもないと入力がグリッドのゼロボルト付近まで振れた時、定電圧回路の電流容量が下側の球に及ばなくなり、グリッド電流が流れる領域を使ってしまいます。

ただしその時でもG-K間の電圧が低くG1損失は0,01W程度ですから、フレームグリッドとはいえ致命的なダメージの心配は無いと思います

ここまでの計測ではEg2を固定電源、つまり電源インピーダンス0Ωとして実験回路を組みましたが、もし簡単な分圧による電源を使った場合、当然グリッド電流の影響でEg2が変動してしまいます。

そこでEg2電源のインピーダンスが50kΩの時の特性も計測してみました。


              


このようにまるで異なる特性となり、カスコード回路ではグリッド電流が流れてしまう領域にロードラインが入りそうな場合、g2電源の内部抵抗が重要であることがわかります。

さらにg2電流は、上側の球のプレート電圧が規定以上ならば全く流れず、5極管動作とは全く異なりますので、この点しっかりとした認識が必要でしょう。


              


異なってしまう理由はg2電源の内部抵抗が大きいと、グリッド電流によりEg2つまり設定電圧が下がり、それに合わせて低いプレート電圧からジリジリと電流が流れ出すからです。

ちなみにメーカー発表の特性は大抵このように抵抗で分圧した場合を示しているようですから、分圧抵抗の大きさで特性が変化します。


        


一方でカスコード回路の動作を計算などから感覚的に掴む事は難しく、ロードラインを変化させた時の動作の違いをダイナミックに比較したり、新しい使い方を考察するには、実測が有利なのではないでしょうか。

また今回の計測で、カスコードのg2と5極管のg2では全く別の動作であるとわかりました。つまりカスコードにおいてg2電流は流せないのです。

次回は、FMラジオのヘッドエンドとして使用する際にはほとんど問題にならなかった直線性を、低周波においてどのように確保したらよいのか、カスコード接続が持つ構造的欠陥から検討します。


つづく


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その2 肩特性のナゾを探る
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