天気予報などで良く語られるフェーン現象ですが、発生原理の説明が、どうもよくわかりません。
なぜ南から吹いた風が山を登って雨を降らし、反対側に降りてくると、高温の風になるのでしょうか。

そこでフェーン現象を理解する大事なポイントは、


 
@ 空気は、圧縮すると、収縮して温度が上がり、
         減圧すると、膨張して温度が下がる。


     


 
A 水は、氷から水、水から水蒸気、と変化するに連れ、熱エネルギー(カロリー)が高い状態になり、
   水蒸気から水、水から氷、と変化するに連れ、熱エネルギー(カロリー)が低い状態になる。


    



という2点になります。

@の例では自転車の空気入れを押している時、シリンダー内では空気が圧縮され温度が上がるので、シリンダーが熱くなります。


                


一方、あまり知られていないのに身近な@例では、新幹線が高速でトンネルに突入するとき、車内の空気圧の急上昇により耳が痛くなる、いわゆる耳ツン現象への対策があります。

耳が痛くなるのは、トンネル入口の空気が高速で突入する車体によって圧縮され、高圧となった外気が一気に車内へと入り込むからです。そこでそれを防止するため、ドアや窓を完全に密封(気圧ロック)します。


     


もちろんそのままでは乗客が窒息してしまいますから、車内の空気を加圧して、外気圧の変化を押し返しながら換気して走ります。まるでジェット旅客機ですね。

しかしこの加圧圧縮状態により、実際には車内の気温が外気温より上昇してしまうのです。こうした事から冬場は暖房に有利な反面、夏場のクーラーの利きが悪くなり、より強力な冷房設備が必要となります。

     ※気圧ロックについての悲しい話はこちら

またOA用ダストスプレー缶を連続して使用すると、缶の空気が膨張し表面が冷え、水滴や氷が出来ます.。


Aの例では、氷を水にしたい時や水を水蒸気にしたい時など、ガスコンロで熱エネルギー(カロリー)を加えて作りますから、誰もが体感しているでしょうし、空気中の水蒸気が冷やされてガラスに結露するのは、日常よく見る現象です。



 こうした膨張や圧縮によるカロリーの伝達をとても効率よく行うのが、 
 フロンで知られる、エアコンの冷媒というものです。

 冷房をするとき、まず気体の冷媒をコンプレッサーで圧縮して強引に液化させます。
 すると液体は気体よりカロリーが低い時の形状なので熱があふれてきます。

 こうしてあふれ出てきたカロリーを、室外機のファンで冷やす(捨てる)ため、
 夏場において、エアコンの室外機からは、熱風がガンガン出るのです。


  


 次に液化してカロリーを捨てた冷媒を、パイプで室内機側まで送り、 
 室内のまだ冷えていない空気によって、暖め蒸発させます。

 つまり冷房とは、室内カロリーを使った冷媒の加熱といえ、
 これによって室内の熱が、室外に持ち運ばれてしまうのです。

 この時冷媒は気体となるため、大量の室内カロリーを取り込めるようにもなります。
 大量の室内カロリーを持った気体の冷媒はまたコンプレッサーに行き、
 液体にされた後、ファンでカロリーを捨てます。

 このように冷媒とは室内の熱で膨張して高カロリーの気体になり、
 コンプレッサーで圧縮してカロリーを絞りだし、
 低カロリーの液体になることでカロリーを運搬します。

 


「大気」というのは、酸素と窒素で出来た「空気」と、気体になった水「水蒸気」との、
絶妙な「気体カクテル」を意味します。

まず太平洋から暖かい空気と水蒸気(水)の混ざった大気の風が吹き、山を上昇します。そしてこの次が肝心です。

天気予報などでは、「その大気が上空で冷やされて、雲が発生し・・・」と解説しますが、強い南風の大気団は移動が速く、のんびり冷やされている時間などありません。





つまり上空に上った大気団は、外部から冷やされるのではなく、気圧の低下で膨張し、自ら勝手に冷えます。そのため内部に持っている熱エネルギー(カロリー)は、外部に放出されません。

こうして勝手に冷えた大気団は、一緒に混ざっている水蒸気も冷やし、水蒸気から熱(カロリー)を奪います。

ここでもし水蒸気がカロリーを奪われても、水蒸気のまま、もしくは雲(ゆげ)の状態までなら、山越えして平地で圧縮されたとき、水は空気から熱エネルギーを返され、再び太平洋側と同じ大気に戻れます。





しかしついに水蒸気の温度が雨になるまで下がってしまうと、水蒸気は以前持っていたカロリーを空気に奪われたまま、雨となって、この大気団から脱落することになります。

こうして残された空気は、かつて持っていた自分のカロリーと、水蒸気のカロリーを両方持ったまま平地で圧縮されるため、とても高温で乾燥した空気となるわけです。





太平洋から一緒に空の旅をして来た空気と水ですが、山の上で空気に身ぐるみをはがされ、途中で地上に落とされてしまう水と、両手に2人分の財布やスーツケースを持って山を舞い下りてくる空気の物語、これがフェーン現象です。





フェーンのあまりの猛暑に、人々の口から不満が漏れる時、それは山の上でカロリーをはぎ取られた水蒸気の怨念が、私たちの耳元で

「ダ、旦那ァー!ゼ、ゼヒ空気の野郎にィーー・・・、」ズダダァァーーーーーーン (効果音)

「ひ、ひとこと叱ってやって、お、お、く、ん、な、せェーー。」バッシィィーーーーン(効果音)

と囁いているのかもしれません。




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※悲しい話

このように新幹線では通常の電車とは異なる気圧ロックがあるため、一度閉まったドアーは簡単に手で開けられません。またドアーのゴムパッキンも、非常に強力になっています。

ある時、少年が新幹線の出発時刻に遅れ、閉まりかけたドアの隙間に手を突っ込んだのです。しかし新幹線はそれを知らずに走りだしました。

通常の電車ならば、思い切り手を引っ張ればドアから手が抜けるはずですが、上記の理由で挟まれた手は絶対に抜けません。少年はホームからそのまま新幹線に引きずられ、結局死亡しました。

この教訓から、JRでは新幹線に対し一定の速度に上昇するまで、ドアーの気圧ロックがかからないようにしてあります。


ちなみにこうした気圧ロックを採用している高速鉄道は珍しく、最高速を誇る海外の高速鉄道でも、トンネルに入る時はノロノロ運転となるため、トンネルの多い日本国内では全く使い物になりません。

また湿度の高い日本で生まれた新幹線は結露などにも強く、それが原因でトンネル内に立ち往生したTGVを、日本製新幹線車両が2回も救出した、イギリス国内での話は有名です。

その時はヨーロッパを強い寒波が襲い、救助に向かった別のTGVも、トンネル内で動けなくなってしまったのです。






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