強制空冷と言うのは外部エネルギーでファンなどを回し、冷却を行う状態を言います。それに対し、自然空冷とは自らの発熱エネルギーで空気の対流を作り出し、冷却を行うことです。

それならば自らの発熱エネルギーで電気を作り出し、それで空気の対流を起こせば、これも自然空冷と言えるのではないでしょうか。具体的にはヒートシンクに取り付けたペルチェ素子で発電し、ファンを回すと言うわけです。

ここまで読むと、「そりゃインチキだ!ファンを回したら強制空冷じゃないか!」と多くの方が思うかもしれません。関西の人なら「そらインチキやで!ファンを回してしもたら強制空冷やないかいな!」と思うかもしれません。確かにこれを自然空冷とするには若干無理があるとも思えます。


                   


そこで第3の空冷方式に対し自主空冷(Independent Cooling)と名付けました。しかしそれ以前に自主空冷なるものがすぐ実現可能なのでしょうか。こういう事はやってみなくちゃわからないので、早速実験を行ってみました。

ペルチェ素子は40mm角(秋月で700円だったが、600円を見つけた。)を用い、モーターはマブチのOEMである、タミヤソーラーモーター02型を使います。

多々売られている模型用プロペラ(ファン)で、最初に入手した扇風機型の低価格品は、4個買った全てのシャフトホールがやや傾いていて、回転するといかにも安物という感じでフラフラ回ります。しかし回転数が低いのであまり問題はありません。


         


この状態でプレート電流を流すと、しばらくしてモーターが回転し始めます。真空管用ヒートシンクの左側にペルチェ素子とその冷却用アルミ製ヒートシンクがあり、両方同時に風を当てます。

ただし、まだ実験段階なのでGS-90Bのヒートシンクには接着せず、べーク板で押さえているだけです。またプロペラは低回転でも風が起き易くするため、羽根の傾きをきつめに加工しました。当然プロペラはこれ以外にも色々変えて試す予定です。


         


今回プレート入力(PEP)=1400Vx100mA=140Wで実験した結果、実際の発電状況では下のグラフのように、約5分後に回り始め、その後徐々に速度を増し0,85Vで安定しました。

写真では勢いよくブィーンと回っているように見えますが、実際は風切音の皆無なクルクルッといった、ひ弱な感じの回転です。しかし僅かな風でも冷却効率が極めて高いため、PEP140Wにおいてプレート温度は120℃程度に収まっています。

そしてこれが「発熱を別途用意されたエネルギーで除去する」強制空冷と、「発熱を発熱エネルギー自体のリサイクルで除去する」自主空冷との相違点と言えます。

つまり通常の強制空冷管において、こうした微弱な風は、ほとんど役に立たないのです。


           


ペルチェ素子の高温側は80℃弱、低温側は28℃くらいになっています。この変換素子は150℃以下で使わないといけないそうですが、これなら心配ありません。


さらにこうした構造はヒートバッテリーという熱による物理的電池を構成していますから、電源を切っても銅製大型ヒートシンクに蓄積された熱カロリーがプロペラを回し続け、5分以上バックアップ冷却を行ってくれます。

おまけにこのバッテリーは化学変化を利用していないため、ペルチェ素子が壊れない限り、半永久的に充電放電の繰り返しが可能な、メンテナンスフリータイプなのです。


           

        
以上の実験から自主冷却によりPEP=140Wが可能とわかったので、さっそくIpカーブにロードラインを引いてみました。右側にあるEg-Ipグラフによる直線性検査では、やはりゆるいS字カーブが観測され、大出力時に3次歪が発生すると判断できます。

しかし10W位までなら、そこそこ低ひずみなアンプになるかもしれません。カーブよりgm=14mS、μ=80 から内部抵抗は5,7kΩくらいなので、14kΩに対するDFは2,5となり、GGドライブによって1〜1,5程度に下がると考えられます。





こうして出力45W程度が期待でき、大げささとバランスが取れそうです。また22W出力のとき微妙に問題jだった6,6Vというバイアス電圧が、これでぴったりマッチングすることになります。


  


その後、モーターは下の写真のようにコの字に切り込みを入れたL字金具で取り付けられました。プロペラはまだ暫定的です。

ご覧のように冷却ファンモーターの配線は外部から独立しており、この部分だけで完結する、まさに自主独立な空冷(Independent Cooling)方式だとわかります。

ただし真空管交換時や、プロペラの違いによる回転方向の向きに備え、モーター付きソケット部分とプレートラジエーター部分は赤黒のピンコードで簡単に取り外せるようにしてあります。もちろんモーター部分は絶縁されています。


                


ペルチェ素子用のアルミヒートシンクは実験機よりひとまわり大型のものに変更し、また写真では、6枚羽根ファンの羽根を、熱を加えて急角度にひねったものを着けています。

モーターはより小型、安価、低トルクなタミヤソーラーモーターである03型に変更してあり、風切音は聞こえません。


                 


これらによりPEP=140Wにおいて、最高温部分でも120℃付近での動作が可能となりました。さらに科学教材社から購入したプロペラはもっと効率が良く、100℃以下で動作できます。


                 


PEP=165W、つまり1500V、110mAの動作でも120℃以下に収まり、これはGS-90Bの自主空冷史上、世界最高記録でしょう。もっとも、私の中ではこれでも充分自然空冷なのですが・・・・。

それよりも皆さんは、メインスイッチOFF後のバックアップ冷却についてどのように工夫しているのか、興味が湧きます。

ファンの回る様子はこちらから見ることもできます。




つづく



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その3
第三の冷却方式
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