浅野勇先生は なぜロフチンホワイトアンプに 古典直熱管のみを用いたか
浅野先生とは高校から大学時代に秋葉原ラジオデパートの真空管店「太平洋」で何度かお目にかかり、真空管について簡単な会話を交わした覚えが有ります。

なにしろ高校,、大学がすぐとなりの駅である御茶ノ水にあり、学校帰りはほとんど毎日歩いてアキバに通っていたのですから、度々出会えても当然かもしれません。(但し工学部は神奈川県の川崎市)

そんな先生の著書「魅惑の真空管アンプ」を読んでいて、今まで当然のように思っていた一節にふとギモンが起こりました。

その一節とは「・・・ロフチン・ホワイトの特徴を最も良く発揮させるには、ズバリいって近代的な高性能高感度の真空管はダメです。」というもので、実際に使えるのは45、50、2A3位であろうと書かれています。

この結論は、実際に先生自身が色々な球でアンプを製作されて出てきたものなので、当時より「そりゃそうだろう。」と頭から同意したまま、その先は考えませんでした。


           


しかしそこには必ず理由が潜んでいるはずです。そこで本文をもう一度よく読み直すことにしました。

それによると「ダメ」というのは音が悪いという意味ではなく、CR結合との違いに対し、「・・・従って再生音そのものにもさしたる変化は見られず・・・」と、ほとんどの球がCR結合でもロフチンでも同じであることを示唆しています。

ということは、変化しない方がむしろ普通であって、変化してしまうこうした古典的直熱管こそが、特異な例であるとも言える訳です。

またこうした球はグリッド電流が流れやすいことに関し、50を例にとって「・・・グリッド帰路の直流抵抗をセルフ・バイアス動作でも10KΩ以下におさえることを強く要請・・・」と紹介しています。

つまり、これを通常のCR結合で行うと、ドライバーは5KΩ以下のプレート抵抗で50V以上を送り出せる相当強いパワードライバー、例えば2A3ドライブの50アンプなどでなければならないことがわかります。

またグリッド抵抗をグリッドチョークで設計した場合でも、50Hzで200KΩ位を実現するには640Hくらいのインダクタンスが必要で、そう簡単に直流抵抗は下がらないでしょう。


      


その点直結回路ならば、ある程度グリッド電流の影響から逃れられ、簡単な電圧増幅段で高いドライブ電圧を出せるため、出力段の本領が発揮できたということではないでしょうか。

確かに全ての電子部品、特に真空管が現在に比べたら相当高額だった時代、民生用やアマチュア機器にパワー管ドライブや高インダクタンスのチョークコイルは大げさで高額になります。

そんな中コンパクトでローコストなロフチンホワイト式は、小さくても力持ち的な、ターボチャージャーのような存在だったのかもしれません。

つまり直結だから音が良いというより、直結だからまともにドライブ出来、その結果「・・・比較的大きなスイング電圧を必要とする直線部の長いIp変化の少ないトライオードだけがロフチンの良さを100%発揮してくれますし、球本来の性格も浮き彫りにされます。」という結果になったのではないでしょうか。

一方、現在の恵まれた部品事情でロフチンホワイトアンプを作ることは、球を不要な危険にさらしているようで気が進みません。これでトランジスタアンプのように保護回路を設けるなどしたら、ガードレールの無い幹線道路に子供を通学させておいて、交通安全の立て札を林立させるようなものです。

それでも、もしロフチンホワイト風に作るとしたら、プレート電圧、プレート電流、バイアス電圧など様々なところにメーターと調整ツマミとスタンバイスイッチを設け、音が出るまでそこそこ時間のかかる、のんびりしたアンプになるはずです。


      


またパワー段には2枚プレートではなく、あえて1枚プレートの2A3を使いたいところです。

というのも、この本にあるPX4と2A3の聞き比べの部分で、「PX4と2A3の音色を裸で比較した場合PX4に比して2A3が鈍重な感があり・・・」とありますが、私はその理由に2A3の2枚プレートを疑っているからです。

たしかにプレートを2分割したほうが放熱や機械的強度の点で有利ですが、2つのユニットの特性が揃っているかどうかは外から分かりません。

つまりこの状態は、似たようなしかしやや異なる調整不可能な2台のアンプをパラレルにして、1つのスピーカーにつないだようなもので、これがどうしてもひっかかるわけです。。

そして最近、中国の曙光電子製単板陽極2A3(2本で9000円)の写真を見た瞬間、「この球でアンプを作りたい!これこそ中国版PX4に相違ない!」と思い込み、4本購入してしまいました。(今現在の時点では、まだ手元に無い。)

このPX4、いや2A3のC/Pd、つまりプレート損失1Wあたりのコストは300円となり、私のポリシーである「C/Pdは50円以下を目指す。」に大きく反する高価格です。

しかしこれでシングルアンプを作り、ストックしていたワーフェデ−ルのスーパー8をゆったり目のセミバスレフキャビネットに入れて鳴らす、というプランまで出来てしまいました。

ホレた弱みとはこういうものなのでしょうか。おそらくどんな音が出ても「これ、サイコー!」と言ってしまいそうです。






素朴な「ギモン」シリーズ
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