理想SEPPを探そう!
SEPPといえばOTL。私などはほぼ条件反射的にそう思ってしまいます。確かに真空管オーディオ回路発達の歴史は、段間トランス排除、あるいはCR発達の歴史でもありました。

なんといってもCR結合はコストが低く、場所をとらず、軽く、f特も良く、歪も少なくと、最後の矛先(ほこさき)がOPTに向けられたのは自然の摂理でしょう。’60年代スピーカーメーカーもこれに呼応して、ハイインピーダンス・スピーカーユニットを多品種自作マニアに送り出しました。

さらにOPT不要のメリットは、一般オーディオメーカーにも一部広がってさせていたようで、’60年代後期、そのあたりから流出されたであろうノーブランドハイインピーダンス・スピーカーが、安価に購入出来ました。当時からOTLは少数派でしたが「低音はOTLに限るもんね!」と言った風潮は強く、私も400Ωの20cmウーハーや、200Ωの40cmウーハーなどを衝動買いした記憶があります。

またNFB万能論により、超低歪率、高DF、ハイパワー化を進めるトランジスタアンプに、唯一対抗出来る真空管アンプとして、OTLはある程度有望視されていました。

しかし’70年代に入るとハイインピーダンス・スピーカーも姿を消し、ハシゴをはずされたかたちの真空管OTLは、ムチャクチャな動作点を強いられるなか、パラレル接続と、強度のNFBで生き延びてきたのです。

現在でも、ほとんど無意味と思える16Ω時の出力を未練がましく表示しているのは、少しでも大きい負荷を渇望するOTLの恨み節と言えましょう。


      



上は8Ω負荷で12GB3Aの4パラ動作例ですが、8本も出力管を使って、やっと12Wです。しかし1本あたりピークで130Wにも及ぶプレート損失が問題になることは有りませんでした。

同様に明らかに定格不足の電源トランスが問題になることもありませんでした。2Wも出れば十二分という当時のリスナー環境にとって、12Wはただの数値でしかなかったからです。

もし700VAクラスのトランスをドカッと請求書ごと手渡されていたら、OTLはまた次の機会に・・・と思ったかもしれません。

フッターマンH3のコピー機を作った時も、製作自体非常に楽しかった反面、OTLの真のメリットは実感できませんでした。

そんな中でトランジスタアンプから先制攻撃が入りました。全段直結です。

さらに高嶺の花だったOPアンプIC(現在1ユニットあたり5円もしない741タイプのさらに前身の709タイプ)がなんと2000円前後の超安値?(当時は)で普及し出し(※)、DCアンプがあっけなく自作できる時代になってしまったのです。

それだけではありません。今度は内部から叛乱が起き、「段間トランスの音も、いいんじゃない。」とか、「NFBなんて不要です。」というオールドチューブマニアが一気に動き出しました。

世はまさに戦国時代。苦戦を強いられた真空管OTLの運命やいかに!と無責任な文面を長々と綴ってきましたが、ここで素朴な疑問が湧きました。それは「真空管SEPP回路を活用する場合、本当にOTLじゃなきゃダメなの?」という点です。

OTLの魅力はOPTにまつわる重量及びf特と歪ですが、動作点のことを考慮すると、歪は争点になりませんし、電源トランスをきっちり選べば、重量も変わらないでしょう。

となるとOPTが無い故、多量のNFBをかけて歪率やDFを稼ぐという、初期のトランジスタアンプの後追い的なことしか残りません。

また電源電圧の非効率さが音質にまったく貢献していないという、A級動作やヒーター電力のロスとは全く別次元の、アンチエコ的悩ましさも残ります。


          


唯一うなづける点があるとしたら、「それでもオレは真空管でOTLをやっているんだ!」という根性のあっぱれさでしょう。

ただし近年の音楽ソースやリスナー環境において、その根性を見せつける為には、かなりの物量戦を覚悟しなければなりません。


741が出た当時、トランジスタ技術誌では「741はもう古い」という過激な題名のテクニカルエッセイが出ました。

これからはOPアンプICを有り難がったり、オフセットボリウムを恐る恐るまわしたりする時代は終わらせ、これをトランジスタの如く1つの部品として手軽に扱うような時代が来るべきだという、当時としてはとても先進的な内容でした。

それでも1ユニットあたり50円前後がコストの限界ではなかろうかと締めくくっていて、当時のOPアンプICに対する人々の思いが感じ取れます。


つづく




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