3極管接続の特性を計測したあと、実際に直流電圧を各電極にかけ、真空管の内部を覗いてみると、それほど電流を流した状態ではないのに、第2グリッドが赤化していました。これはおかしい。
そこで個別に電流計を入れて計測すると、プレートより第2グリッドの方が電流が流れやすくなっているではありませんか。これでは3極管接続はできません。つまりこの球はHVTCの考え方が通用しない球のようなのです。
ついに私の理論も、ナチス第3帝国の逆襲により、哀れ敗れ去ってしまったようです。しかしどうも腑に落ちないので、改めて本来の5極管接続の特性カーブを3本ほど計測してみました。
すると5極管特性とはかけ離れた、とんでもないカーブが出てきたではありませんか。さらに単なる不良なら、もっとランダムな症状が現れるはずなのに、異常さがどのサンプルも、極めて似かよっているのです。
そして不思議なことは続きます。例えば−40Vのバイアス時、プレートに400V、第2グリッドに200Vを掛けた状態でプレート電圧を上昇させてゆくと、当然第2グリッド電流は減衰しますが、第2グリッドの赤化は進んでゆくのです。
つまり損失が減衰しているのに、赤化は進んでゆくというわけです。そこで第1グリッドも第2グリッドも第3グリッドも0Vとし、プレート電圧だけを上昇させても、さらには電極から配線を外しても、同様の結果になるのです。
そこで試しにプレート電圧を1500V以上に上げたところ、「パシン」という音とともに管内に火花が散り、この球は一巻の終わりとなりました。早速ガラスを割って内部の調査に入ります。
実をいうと、私はこの瞬間を待っていました。研究のためとはいえ、やはり生きている真空管のガラスを割るのは気が引けますから。
まず分解して分かったのは、いままで赤化していたのは第2グリッドではなく、第3グリッドだったということです。そして異常な現象は第3グリッドとプレート端子の取り違えであるとわかりました。
更に火花が飛んだのは、赤化したグリッドかと思っていたのですが、実はカソードのようでした。下の写真では、カソードに黒い穴のようなものが見えます。
そして特徴的なのは、カソードの白い表面がスムーズでなく、やたらとデコボコしている点です。上の写真でもバースト箇所より下が、まるでバウムクーヘンのようになっているのが分かると思います。
またこの表面の白い材料(アランダムか?
※)は分解してゆく過程でパラパラ落ちてしまいました。一体どういうことなのでしょう。場合によっては更にもう一本分解する必要があるかもしれません。
※酸化アルミニウムから作られた絶縁耐熱材
というのもカソードの白い物質によるデコボコは、バーストによって発生したかもしれないので、何も起きていない健全な球を分解、観察する必要があるわけです。
もしアランダムならば、ヒーター、カソード間にあるべきで、絶縁や耐圧を必要としないカソードの外側に、不均一にタップリと使用する意図が分かりません。全くわからないことだらけで、
エニグマに挑むアラン・チューリング博士を思い起こします。
もちろんこのような状況は、当初全く予測していませんでしたが、予備の球は20本以上ありますので、まだまだ実験を継続できます。そしてこの謎の赤化現象を
「総統の呪い」と命名いたしました。
つづく
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