数あるスピーカーボックスの形式で、小型独立設置型ながら音質面の工夫が多岐にわたって反映できるものといえば、やはりバスレフでしょう。

バックロードホーンも面白いのですが、低音をホーンで再生するという行為自体、最低4mというホーン長はもとより、部屋のコーナーをに開口部に代用させないと巨大なシステムが必要となります。

そしてこれが本当のバックロードの音を誰も体験することが出来ない悲劇の原因となっています。


        

故に小型の独立型バックロードと言われているものは、低音再生よりもむしろ工作の楽しさや構造の妙味を味わう対象として、サウンドよりも工作力を視覚にうったえる折り曲げダクト型が多いようです。

思えば長岡先生は、不要になった風呂の蓋(ヒノキだと思う)によるスパイラルホーンで、その後自らも超えられない最高傑作を作り、いきなり最初からバックロードに終止符を打ってしまいました。

今回はコンデンサーツイーターの大量収集にちなみ、ソニーのSA−MD9を3セットほど安く落札したので、ツイーターや周りのプラスチック部分をはずし、その16cmウーハーとキャビネット部分を使ってバスレフの実験をします。


        下がSA−MD9の中身 右が本来の姿

    


バスレフの原理はご存知の方も多いと思いますが、まず

@ キャビネット内にある空気の収縮力をバネに見立て、また

A ダクト内の空気のかたまりが持つ移動抵抗をオモリとすると、

ここに共鳴システム、つまり外部から力を加えると振動し続けようとする仕組みが完成します。

そしてスピーカー背面から出る逆相音のうち特定の低音を共鳴させると、その低音の付近だけダクトの出口で更に逆相となり、結果スピーカーとダクトから同相の音が出てくると言うわけです。





共鳴点以下の周波数においてダクトは単なる穴なので、そこから漏れた背面音と打ち消し合い、急激に低音の減衰が起こります。また共鳴点以上ではダクトは無い物とみなされ、密閉箱と同じになります。

つまり特定の低音は持ち上がる反面、それ以下の低音は消え去る宿命を、バスレフは持っている訳です。

動作原理の身近な例では水ヨーヨーがこれにあたり、逆方向に動いてくれないと、いつまでたってもフーセンが手に跳ね返りません。

つまりこの時の手の動きは、直感的にバネとなるゴムひもと、オモリとなる水フーセンの共鳴(共振)周波数を探し当てているわけです。


               


手の動きがゆっくりになるというのは、周波数が低くなる場合を表わし、この時逆相現象は起きません。つまり背面の逆相音がそのままダクトから出てくるため、低音の打消しが起きてしまいます。


                 


また手の動きが早くなるというのは、周波数が高くなる場合を表わし、フーセンは上下に動きません。つまり背面の音はダクトを通過できず、ダクトが無い時と同じ状態です。


                 


余談ですが地域のイベントなどで我々シロウトが水ヨーヨーをつくる時、オモリとなる水量の調整が意外と難しいため、異常に早く手を動かさないと、あるいは異常にゆっくりじゃないとダメな水ヨーヨーが出来たりします。

またバスレフの設計は、あまり細かく考えても、気温や湿度で特性が変化しますから、ほどほどに考えましょう。朝と晩では別の音なのです。夏と冬では別の音なのです。

キャビネットを小さくするのはバネを硬くすることになり、ダクトを短くまたは口径を大きくするのはオモリを軽くすることになり、どちらも共鳴する周波数が上昇して低音が出なくなります。


                             


かといって小さなキャビネットであまりダクトを長くしたり口径を小さくすると、バスレフの効果そのものが弱くなって、密閉箱に近づいてしまいます。

そこでほどほどの口径でやたら長いダクトを使い、それを複数取り付けたらいったいどうなるかと言うのが今回の実験です。

ただしただでさえ小さなキャビネットに場所をとるダクトを何本も内蔵したら、肝心の有効キャビネット容積がなくなってしまうので、外付けすることにしました。


     


なんだか後ろから見るとグロテスクですが、まあいいでしょう。このあと塗装をして、フロントにあったバスレフの穴をふさぎ、そこにツイーターを取り付けるか、もしくはダブルコーンにしてしまう計画です。

最終的な低音の直感イメージとしては、ややバックロード的なバスレフサウンドが出て来るような気がしますが、はたしてどうなりますやら。

ということで外観は下のようになり、とりあえずこのスピーカーの特徴を把握するためフルレンジシングルコーンで鳴らしてみることにしました。





いわゆる超重低音は出ませんが低域から中域にかけての音色に魅力があり、ここにとても優れた素性があると耳で感じました。しかし高音域は4〜6KHz周辺で分割振動による少し嫌なピークが聴き取れます。

またセンターキャップが中高域にクセを出しているようなのと、ポールとの間の空気がfoを高くしているようなのでこれを取り外し、卵形のディフィーザーを取り付けることにしました。

   

このディフィーザーはホームセンターで1個98円で売っていた桧(ヒノキ)のウッドブロックに10mmのボルトを取り付けたもので効果は下のようになりました。1KHzのレベルを基準に測定していて、1KHz以下はほとんど同じです。





が、やはりフルレンジでは5KHz周辺のピークと歪感がきつく聴こえるので、高音域はあっさりあきらめ、ツイーターを使った2WAY構成にします。





またfoを強引に下げるため、ボイスコイル付近に、数回巻いた銅線によるウエイトを取り付けることにして、それぞれの状態で100Hz以下を中心に計測してみました。









たこ足ではー3dB地点が90Hzあたりから80Hzくらいまで下がっていてます。さらにウエイト付きでは60Hzくらいに低域の復活ピークが出来ているため、そこそこの低音が期待できそうです。

あとはツイーターとのネットワーク作りですが、ここは数学的な定数などにこだわっていてはいけません。

というのもネットワークの定数つまりコンデンサーやコイルの値はスピーカーが全帯域フラットである場合を前提としているからで、実際そのようなスピーカーはありません。

また仮に周波数特性がフラットであっても、歪の混入具合によって音量感が変わってきます。ですからできるだけたくさんのコイルやコンデンサーを用意して、耳で作り上げるのが良いのです。

しかし新品のコイルは高いので、取り外したネットワークやジャンクのボックスをオークションで集め、そこからパーツを取り出すのが良いでしょう。





しっかりした箱なら前面バッフルだけ変更してリユースできますし、1970年代の3WAYは1000円位から出品されていますので、スピーカーユニット(特にウーハー)はゴミとしてもパーツとして格安と言えるでしょう。ただし送料については注意が必要です。

ツイーターは同じくソニー製パソコン用スピーカーPCVA−SS1をバラし、そのユニットを流用しています。これだけのパーツがわずか500円から(送料込みで1800円)落札できる現代は本当に幸せです。


   


ということで最終的な外観は下のようになりました。ツイーターのまわりにあったグレーのプラスチック部分はヒートガンで取り外しました。ネットワークはインピーダンス整合とアッテネーターを兼ねて2Ωを入れてあります。

さらに25mmエンビパイプのエルボーを用い、あえてバッフルレスにしたのは、このほうが臨場感があると分かったからです。


  
       だいぶ原型とは変わってしまった


音質はこの外観と不相応な落ち着きあるクリアーサウンドで、どちらかと言えばブリティッシュ系です。

下の周波数特性は1dBきざみであるのに加え部屋の定在波の影響もあり、かなり山谷が激しく書かれていてますが、1KHzを基準に考えると60Hzまで同レベル、55Hzで−3dB、45Hzで−6dBと言うのはまあまあの値ではないでしょうか。

また30Hz位でも一応負荷が掛かっていて音圧感があり、これと90Hzにあるピークとのコラボでソースによってはリッチな低音が得られます。





ちなみにこのウーハーはエッジがやわらかくハイコンプライアンスタイプの筈なのに、その割にコーン紙の動きが硬いと思っていました。しかし音を出しているうちにfoが下がってゆく感じがしたのです。

いずれにしろ今は錯覚も含めどんどんイイ感じの低音になっています。欠点はやや能率が低い点でしょうか。私が試聴している場所(コンソールルーム)の遮音が充分である上、仕事柄ガンガン鳴らしてしまうので10W程度のシングルではちょっとパワー不足を感じたのです。

さらに良く聴きこむと少し落ち着き過ぎのような気もしてきたました。原因は5〜6KHzの谷間にあるようです。そこでウーハーをダブルコーン化することにしました。

使用するのはコピー用紙の特厚というものです。まずサークルカッターでリング型を切り、ボビンの直径に合わせてテキトーに貼りあわせ、コーン紙の付け根に取り付けます。するとこれによって音に立体感が加わりました。


    
                            ついにダブルコーンになった




ところがその一方で中域(500Hzあたり)にクセを感じたため、やはりこの方法は無理があるということで思い切ってダブルコーン取りはずしました。そのかわりツイーターのカットオフ周波数を下げるためコンデンサーを2,2μFから3,4μFに変更したのです。

その結果、良好な帯域バランス感は出たのですが、音が平面的になってしまいました。そこでコンデンサーの値は変更したまま再びダブルコーンにしてみると、これがうまくいき、音像の3D感が戻りました。

スピーカーの音作りの第一条件は聴いて心地よいことです。、若干手荒なことも臆せず、しかしながら「せっかくやったのだから」といった未練にとらわれない必要があります。

さらに我々の潜在心理、つまり脳ミソは、苦労してやった行為、買う時高価だった物、希少価値があるといわれた物に対し、無意識に高い評価を与えてしまうそうなので、この部分においても客観性を忘れないようにしたいものです。





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