3極管と5極管のちがい
ここでは5極管のイメージを感じるため、できるだけ実態に近いイラストを作り、それを多用したレポートを企画しました。

まず正さなければならないのは、「5極管とは、3極管の第1グリッドとプレートの間に第2グリッドや第3グリッドを挿入したものである。」という伝統的表現方法です。


        


もしその表現通りならば第2グリッド(g2)や第3グリッド(g3)を無接続にすれば3極管として動作するはずですが、残念ながら実際はほとんど実用になりません。なぜでしょうか。(ハイμ接続を除く)

その理由は、5極管とは、「3極管のプレートがあった位置に、g2を設け、その外側に、g3やプレートを配置したもの。」であるからです。


         


3極管のプレートが平べったく、5極管のプレートが箱型や筒型なのは、g2の割り込みによりプレートの居場所が、はるか後方へ押しのけられたためです。


         


   
6AS7Gは低内部抵抗管なのでPK間が特に狭い   一方6L6のプレートははるか遠くにある


そしてプレートとカソードの物理的距離は、真空管の内部抵抗の大小にとても深く関わっています。例えば内部抵抗を最も下げたい2極管などは、プレートがカソードに、耐圧ギリギリまで接近しているのが見て取れるでしょう。


            


               


5極管の内部抵抗が高いと言われるのは、この距離のためですが、ではプレートを押しのけるほどg2はエライのでしょうか。実はその通りで、この事態により、プレートはプレート電流値(Ip)の決定権をほとんど奪われることになります。


     


さらにg2は「成りすましプレート」としてg1やカソードと3極管構造を組み、最大プレート電流を勝手に仕切る花形行為を見せつけますが、一方で熱損失となる電力仕事に関しては、だまって働くプレートに、ほとんど全部押し付けているわけです。

これはプレートの電圧利用範囲が格段に広がり、電流も、特にプレート電圧の低い場所でたくさん流れるようにできる大発明で、時代は第2グリッドつまり4極管(後に5極管)を賞賛しました。


             


なんとお人好しなプレート。対してなんとムカつく第2グリッド!そう!そう言えばこれに似た様なヤツ、時々居るんだよナー!・・・と思わず感情移入。

ところで下の図右にある「g2による3極管で決定された架空の電流値」とは、「もしここに本当のプレートがあったら、このぐらいの電流は流れるぞー。」という架空の値です。

その点「スクリーングリッド」とは実にうまいネーミングで、カソードはここ(g2)に映されたプレートの映像にだまされ、大量の電子を放出します。不正確な例えですが、実体のない儲け話に集まって、金を引き出されてしまった人々のようでもあります。


     


その際、g2は自分が引っぱり出した電子流をスルリとかわし、プレートに電力の受け皿として全部処理させます。

まるで口利き役が金を引き出させ、胴元がそれを全部持って消えた後、口利き役も同じ被害者であるかのように装い、話をウヤムヤにする裏社会のようです。・・・イカン!これではプレートも悪役になってしまうではありませんか。

それはさて置き、ではg2に大電流による大きな電力損失は起きないのでしょうか。その答えはイエスでもありノーでもあります。

まず通常の使用では、g2に当たってくる電子により若干の電流は流れるとは言え、所詮グリッドですから当たる面積が僅かです。

また、すぐ横を通っても急ブレーキが効かないこともあり、ほとんんどの電子はプレートへ直行します。よって答えはイエス。g2は電力損失が僅かで、変動が穏やかな電界効果型グリッドと言えます。


           


一方Ecが0Vまで振られることでEpがEg2を大きく下回った時に、大電流が流れて大きな損失が発生します。ちなみに5極管ではこのあたりを肩特性の部分と呼び、その活用が効率良い動作の基本として積極的に使われています。

よって答えはノー。そして、この時はじめてg2は許容損失オーバー気味の本格的パワーグリッドになり、そのときEg2の値があまり大きいとg2は致命的打撃を受けます。

逆にこのイエス、ノー、2パターンの電流値だけを規格表に記載する場合が一般的なため、g2は常時電流変動を起こすダイナミックでパワフル、また高圧に弱い電極であると語られて来たようです。


            


これらの事を踏まえて、g2にやさしい5極管アンプを作ろうとすると、比較的高いプレート電圧であるにもかかわらず、動作中常にg2電圧がそれを上回っているUL接続はキビシイでしょう。

またロードラインは肩特性を通らせず、EpやRLは高めギリギリ、Eg2はやや低めでレギュレーションは考えず、ドライバーはEcが0Vを超えたらすぐクリップするよう、高インピーダンスで良い、となります。

このように書くと、あんなにムカついていたg2に、何故それほどやさしくするのか疑問に思うかもしれません。しかしこのようにしてやらないと、g2はすぐにその内部からガスを発生してしまい、真空度の低下は勿論、高電圧でイオン化したガスがカソードにぶつかり、その表面を壊し始めるからなのです。


             


ところで3極管接続について、伝統的表現方法では、「3極管接続とは、プレートに第2グリッドを接続すること。」となっていますが、ここまで読まれた方々の中にはあることに薄々気付いている人もいるのではないでしょうか。

そのとおり!つまり3極管接続とは、「プレートに第2グリッドを」ではなく、「第2グリッドにプレートを接続すること。」と言った方が妥当では無かろうかという訳です。恐るべし、そして手が焼け、ムカつくg2・・・・。

5極管接続時、Eg2は固定されていますが、3極管接続でEpを上げて行くと当然Eg2も同じ電圧だけが上昇します。

するとEg2の上昇によりIpの上昇が許可され、プレート電流はg2の架空(スクリーン)電流に沿って上昇可能となるわけです。


       


ただし架空(スクリーン)電流(Isg)とは、第2グリッド電流(Ig2)ではなく、もしスクリーングリッドがプレートだったら本来流れるであろう電流です。

スクリーン上のアイドルが現実の世界に現れるような、ロマンチックな展開ではありますが、3極管接続時のプレート電流の変化は、あくまでg2が主であり、残念ながらここでもプレートは従なのです。クソッ!・・・失礼。

こんな成りすましプレートによる3極管接続ですが、良い事もあります。それはG2自体の表面積が小さいため、本当の3極管に比べてG1〜G2間の静電容量が少ない、つまりG〜P間容量の小さな3極管が出来る点です。

戦中から戦後にかけてPX25AやDA30が4極管の3結になったのも、これらの球が通信に使われるようになり、高周波における性能を引き上げるためだと言われています。


        


次に3極管接続時のプレート電圧の耐圧はどうでしょうか。通常真空管内部の高電圧では、@放電による破壊と、A熱損失による破壊、そしてB高圧によりプラスイオン化したガスがカソードに激突する破壊が考えられます。

3極管接続時の問題としてはg2の耐圧のみに関して考えればよいので、@放電についてはg1、g2間が問題です。またA熱損失ではIg2の大きさが問題となります。最後にガスですが、これも主にg2から発生するガスが問題となるので、熱損失つまりIg2がらみとなります。

まず電極間の耐圧を知る時、一番参考になるのが水平出力管のプレート耐圧で、短いパルスという条件下でピークは7KVほどとなっています。ただし連続して発生するものですから、これで時々放電してしまうのでは実用になりません。このことからGT管クラスなら各電極の耐圧は、1,5KV位までOKであると思われます。

次にIg2ですが、この値が急に大きくなるのはEg1の値が0Vに限りなく近づいた時です。この事態はまさにg1が成りすましのプレートになろうとしているところで、g2はその電子の引き受け役をさせられ始めたことになります。


            


因果応報とはこの事でしょうか。大方の電子は相変わらず後方のプレートが助けてくれますが、なんと言っても飛んでくる電子の量が違いますから、g2は非常にキビシイ状態に立たされます。

そこで3極管接続のAB2級動作では、プレート電圧を極力低めに設定してやることが大切になりますし、そこまでして大出力が欲しいなら、むしろ5極管接続をお勧めします。

もしどうしても3極管接続にこだわるなら、動作範囲をAB1級に留め、プレート電圧と負荷抵抗を一気に高めたほうが、出力や球の寿命で有利になります。

エジソンやフレミングの特許を避けるためにド・フォレストが設置したグリッド(g1)は、増幅作用という予想外の発明となり、さらにその特許を避けようとしたG2がまた別の大発明になるという、真空管の黎明期はロマンがいっぱいです。




オリジナルソング







,
分かっている様で、分かっていない様で、実は分かっていた様な話
オリジナル 物理概念型 真空管イラスト採用!
目次へ