共有カソードエリアとは

まずフィラメント電圧1,5V時のカーブですが、これは明らかにカソード(フィラメント)電力の不足による電流のリミッティング効果で、約35mAで起こっています。


          


次に通常のフィラメント電圧で発生するヒステリシスカーブですが、グリッド電圧が−180V(緑)よりも−200V(赤)の時の方が早くプレート電流が立ち上がっています。

これは、よりプレート〜グリッド間の電圧が高まったためと考えると、カーブの立ち上がりはグリッド電流によるものと予測しました。そしてグリッドからエミッションが出てしまう原因がフィラメントによる加熱なのでは無いかと疑いました。


           

だからこそフィラメント電圧を下げてやればグリッドの温度が下がり、ヒステリシスカーブが消滅するわけです。しかしグリッド電流としてはやや大き過ぎる気がします。

ちなみにこのグリッド電流は通常のグリッド〜カソード方向の電流ではなく、プレート〜グリッド方向の逆向き電流です。ところがグリッドに電流計をつないでも全くグリッド電流は流れていません。

           


これはどうやら未だに習っていない現象が発生しているようです。そこで私なりに勝手な推論をしてみました。

まずグリッドがカソードによって加熱され、運動エネルギーレベルが上がりカソードが2重になったような状態が出来ます。そこでこれを「共有カソードエリア」と呼ぶことにします。


    


この状態でグリッドはカソードよりもプレートに近く、電位差もカソードより大きい反面、その材質から電子の飛び出しやすさはカソードに及びません。

そこでデコボココンビのような共有カソードエリアに大きなバイアス電圧が加わると2極管動作が始まり電流が流れてしまうのではないでしょうか。

そのときグリッドは自ら電子を出すのではなくカソードから電子を取り出す触媒(吸引ポンプ)のような効果が起きているため、グリッド電流は流れないと言うわけです。

別の言い方をすると、グリッドから電子が飛び出すと同時に、それを補うようにカソードがグリッドに電子を与えるという連鎖反応が起こっていると考えられます。


    


通常私たちはグリッド損失は電力損失によりのみ起こると考えていますが、第1グリッドに関しては6HV5Aのフレームグリッドの項でも書いたように、ヒーターからの熱損失も考慮に入れなければなりません。

また2A3の2枚プレート構造はグリッドがより加熱されやすいため、同じメーカー(曙光電子)でもこのような事が起こったと推測できます。勿論グリッドの材料(例えば金メッキ線*)によってこうしたことを抑える事も出来るでしょう。 *:ラジオ技術社「オーディオ用真空管マニュアル」21頁

ただしこの取って付けたような推理を確認しょうにも、前述のように最近は1枚プレートの2A3しかなく、サンプルを入手出来ません。とりあえずこの2A3は1,9V管として動作させる事にします。

その後「NATIONAL ELECTRONICS」というブランド(中国製)の2A3が入手できたので計測したのが下のグラフです。本体細部の作りを見ると曙光電子と瓜2つですのでおそらく同じものだと思います。


       


そしてやはりこの球も同様の傾向をもっていることが判りました。

やがて曙光電子の2枚プレートを扱うマニアの間で「やっぱりこの球の1,9V動作は音がイイね!」といったプログレッシブな会話が交わされる日も来ることでしょう。


       


なにしろ規定電圧より24〜28%も電圧を落とした動作の方がまともに電流が流れると言うのなら、ヒーター電圧10%以内厳守のルールは、すでに時代に当てはまらなくなってしまった法律のようなものです。

こんな怪しい2枚プレートの2A3よりも、6AV5の3結や新型6B4Gの方が、皆さんには安心して使えるのではないでしょうか。もちろん1枚プレートならば問題なしですが、今後2枚プレートの6B4Gについても計測を行ってみます。



つづく














.
その2