今回hideさんから送られてきた球は、下のような見たことも無いラジエーター付きスタイルのX管でした。私が知らないだけなのかも知れませんが、やはり真空管は奥が深いですね。型番は一応8122ということにします。


            


実際には下のようにアルミ製ヒートシンクを取り付けた銅板に取り付けて動作されているようです。プレートとラジエーターはセラミックで絶縁されています。セラミックといっても窒化アルミニウム製のものは、金属並みの熱伝導性を持っているらしいですから。

    


ソケットは11ピンで、G2にあたるリング部分と接触するスカートが付いていて、放熱や球を固定する機能もあります。


          


その後hideさんからインフォメーションがありました。それによると、

@球の名称は4633 
A米軍ジェット戦闘機の通信機に使用されていた物 
B民生用には販売されていなかったと推定
Cアノードとクーラーを絶縁している物は、Beryllum Oxide
D8122のアノードを変更した物と推定

とのことです。特にCの酸化ベリリウムはアイマックの8873という球が放熱用にこれで出来たブロックSK‐1920を介してヒートシンクから放熱するシステムをとっているようで(誠文堂新光社「リニアー・アンプ製作集」148p)毒性が強いのため取り扱いには注意が必要だそうです。

           



ということで早速計測してみると、波形に点線内のようなループ状の物が現れました。これはプレート電圧をゼロから所定電圧までスキャンする時、行きと帰りで電流の流れ方が違う事を表していますので、少し不安を覚えました。

つまりこの球が何らかのダメージを受けていたなら、測定中にそれが表面化して、最悪の場合壊れてしまうかもしれないからです。


       


やがてその悪い予感が当たったかのように波形がチラつきだし、もはや計測不可能になりました。これはまずい事になったと思い、早速電極のタッチなどが無いか調べましたが、これといって異常はなさそうなのです。

とりあえず頭を冷やして、試しにヒーターを点灯しないままプレート電圧を上げてみると、なんと同じように波形が暴れまくっているではありませんか。

そこでG2回線をはずしてみるとピタリと収まりました。問題がG2にあるのは明白なのでG2回線に電流計をいれ、ヒーターを点灯してからプレート電圧を上げてゆくとみると、やけにG2電流が多く流れます。

通常3結ではG2電流は非常に少ないのに、やはり球に負担を掛けてしまったのではないか、HVTCは万能ではなかったのかとガックリしながらも、もしかしたらソケットに問題がないかと、ソケットを球からはずしソケット単体の導通をテスターで調べました。しかし異常はありません。

ところが何気なくG2が接触するスカート部分とベース部分に電圧を掛けてみたところ、例の暴れまくる電流波形が出てきたではありませんか。しかも電流計の針も触れています。あわてて相方間の導通をテスターで確認しましたが、抵抗は無限大と出ました。

以上の現象からこれは何かあるなと思い、この部分をメガー(絶縁抵抗測定器)で測ることにしました。これは測定する際に測定器内部より500Vの電圧をかげて計測するのですが、それによると無限大ではなく50kΩという低い値が出たのです。

つまりこの部分は青いエポキシのようなもので絶縁されていますが、それが熱で変質し、特定の電圧以上で電流が流れてしまうようなのです。


     


今回最初の方でループが出ている状態の測定時、温度の計測もしていましたが、プレートやヒートシンクは36℃程度だったのに対し、ソケット周りは100℃にもなっていました。よって実働状態ではソケット周りは200℃を超えていた可能性があります。

そこで球のピンへ直接ワニ口クリップで配線し、あらためて計測したカーブが下のようになります。


      


また実際の動作例も出してみました。


      


さらに動作点付近における3定数を出したのが下のグラフです。


      


このように無帰還シングルで50W、DF=8,8というアンプが予測できます。やはりX管は内部抵抗が低いですね。ただし、しつこいようですが下半身冷却には充分な配慮が必要です。

今回はhideさんのご協力で、少しヒヤヒヤもしましたが楽しい計測が出来ました。またデータの公開にも快く同意して頂き、どうもありがとうございました。

この後は具体的なアンプつくりのプランに入ります。100Vというドライブ電圧は一昔前だったら大変なように書かれていましたが、このサイトをご覧になって新真空管時代を感じている方がたなら、6AU6一発で実現できる事をご存知だと思います。そこでこれをプランAとし、実用例は829BやFU50シングルです。

6HV5も200Vを越えるドライブが出来て素晴らしいのですが、今ひとつ市場に出回ってきません。しかし供給電圧が出力管と共有できるのはとても魅力です。とりあえずこれをプランBとし、実用例は4D32や4CX250Kです。

3っつ目は12AT7や6AQ8など3極管と6L6や6CA7の3結により構成する正統派ドライバーで、20mA以上の電流を必要としますが、周波数特性や歪率に最も優れています。ただ優秀すぎて出力段との2次歪の打消しが行われません。これも800Vくらいの供給電圧で300Vくらいのドライブが出来、このCプランでの実用例はSV811−3やGK71シングルとなります。

新真空管時代には、いわゆる真空管アンプ用の電源トランス1個でなんとかしようと言う考えは通用しません。うざったい例えかもしれませんが、フグとフォアグラとアンチョビで作ったテリーヌに、グリーンピースのソースをかけるといった雰囲気でしょうか。それぞれにやたらに手間が掛かります。

次回はこの球を使ったアンプの設計に入ります。メールによれば50Wは必要なく、5Wもあれば充分とのことでした。またプレート電圧も低めでとのオーダーですので、500V以下の低電圧動作とします。


つづく






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hideさんの球 放浪記