永年特性カーブを計測していると、多極管の中には、3極管接続時に極めて素晴らしい特性を発揮するものが多くあることに気付きます。

それはあたかも3極管接続の為に生まれて来たような印象を感じずにはいられませんでした。そこで新たに Multielectrode Tube For Triode (3極管のための多極管)認定委員会を立ち上げ、ぜひ皆様に認識を新たにして頂きたく思いました。

こう書くと「そりゃ余計なお世話だ。」「そんな必要がどこにある。」「聞きたくない。」と一蹴されそうですが、立ち上げてしまったので、まずは1番手として、4−65Aを調べてみることにしましょう。

この球の良いところは、送信管の名門である4ダッシュシリーズの中でも、50W入力くらいまでなら強制空冷が絶対条件なっておらず、ヒーター電力も水平出力管よりやや多い程度という点です。

ただし65Wの最大入力時は、プレートがオレンジ色になりますので、それなりの強制空冷は必要でしょう。またケミコンへの遠赤外線輻射にも注意が必要です。

プレート損失とヒーター電力の割合では、水平出力管の50%に対して30%以下となっています。さらに第2グリッドの耐圧が600Vと十分高く、損失も10Wあるため、HVTCを信じられない人でも安心して、この美しい送信管で3極管接続を実行できます


               


ちなみにHVTCを信じてない人が、第2グリッド耐圧300Vまでと記載されている球で、プレート電圧300Vの3極管接続アンプを作ったとすると、ロードライン上その第2グリッドは600V近くまで上昇することもあるわけです。

ではこの球に対する600V近い、最大定格を超える第2グリッド電圧は、いったい誰が許可したのでしょうか。それは取りも直さずアンプの製作者です。

たとえばピーク電圧としても、20kHzなら1秒間に2万回ピークが来て、矩形波ならもはやDC成分が来ていて、それでもOKということになります。1Hzの矩形波は交流ですが、同時に0,5秒間、交互に直流電圧が掛かるという事でもあるのです。

つまり本気で300Vを超えないようにするには、プレート電圧を150V近くまで下げねばならず、出力は1W以下となりますが、そのような配慮をしているアンプの製作記事は、あまり見たことがありません。そしてこれを非認識下HVTC肯定行動と呼びましょう。


   


まさに人生はRPGのようで、何をアイテムとして知の向上に使うか、あるいはただの石ころとして無視するか、でしょう。

それはさて置き4-65Aで最も重要なのは、この球が内部抵抗1kΩちょっとの、極めてリニアリティーの優れている3極管になれるという点です。

外形やソケットも829Bなどと同じで、あまり大げさにならずシャーシに組み込めると思います。もちろん強制空冷が前提でないとはいえ、50W近く入力するのであれば、それなりの空冷ファンを用意すべきでしょう。

また500Vを超えるプレート電圧ということは、出力トランス1次側に1000V以上の高圧が掛かるということも忘れないでください。

こうしてダンピングファクター4程度の18Wシングルアンプができ、ドライブ電圧118Vの2次歪み打ち消しにより、歪は20Wにおいて3%程度という、300Bも歯が立たない仕上がりと、透明感のある出音が期待できます。


                


気になる残存数ですが、この球でそのまま安易にシングルアンプなどを作っても、多極管にありがちな歪っぽい、但し出力はやや大きいといったものしかできませんから、「やっぱり送信管はイイ音だ」と自分に言い聞かせることに疲れたころ、また巷に戻ってくる可能性があります。

さらに手頃な送信管として買ったのはいいが、どこにでもあるような5極管シングルを作っても能がないとして、どう使うべきか迷っている人も多いような気がします。「送信管で音が出せた。」という時代ではなくなってきているからです。

私はMTFT認証委員会の第3副顧問相談員という立場から、この4−65Aを第1回MTFT認証球として、是非皆さんに推薦したいと思います。


                  


このようにして認証がなされたため、今後は計測によるデータを基に、アンプの設計に入りたいと思います。




つづく