真空管のカスコード接続といえば、FMラジオのヘッドエンドとして6DJ8などを縦に接続した回路図が有名です。ところでこの回路の動作はどのように理解したらよいのでしょうか。

そこで本来の高周波ではなく、低周波での利用という角度から、この回路をどう扱えばよいのか考えてみることにしました。


                  


まず最初は上下2段に組まれた、下側の真空管をプレートフォロア、また上側の真空管をカソード入力回路ではなく、プレート抵抗付のカソードフォロアと見立て、両方の出力「out1」と「out2 」を直結します。(図1)

次にグリッド入力回路の負荷抵抗Rpと、カソード入力回路のカソード抵抗Rkをどんどん大きくして、無視できる無限大になった時、ちょうどカスコード回路と同じになります。(図2)


      

この場合グリッド入力回路の負荷抵抗は、カソード入力回路であるRp(図3)、
カソード入力回路のカソード抵抗は、グリッド入力回路であるRkと見なせます。(図4)





ところで図3のRpとなっている水色部分は、少し書き方を変えると簡易型定電圧回路として見ることが出来るとわかります。


     


また図4のRkとなっている水色部分は、グリッド電圧によるプレート電流可変回路といえます。可変能力はgmによって表わされ、グリッド電圧1Vの変化に対しプレート電流が何mA変化するかで値がきまります。

例えばグリッド電圧が1V変化した時プレート電流が1mA変化すれば1mS(1000μS)、5mA変化すれば5mSです。


     


これら2つの点を考え合わせた上で、改めてカスコード回路を書き直すと、その動作状態はおおよそ下の図のように、簡易定電圧に電圧制御可変抵抗器がつながったスタイルになります。





下側の球の仕事は、上側の球がK点を安定化させるため電流変化を引き起こすよう仕向けることです。そこで下側の球では電圧増幅はほとんど起こりません。なにしろ負荷が定電圧回路なのですから。

それでもK点に若干増幅された電圧が出るのは、この定電圧回路が簡易型で若干変動してしまうためです。しかしこれが上の球にとって更なるゲインの増大に役立っているわけです。





以上の動きをもっと単純化して、可変抵抗器で置き換えてみました。こうして見ると3極管の電圧増幅度μは余り関係なく、むしろ両方の球のgmつまり電流変化機能を2階建てで活用している動作だとわかります。


               


あえてカスコード接続を日本語で言えば「電流変化機能連鎖型・2階建て増幅方式」となるのではないでしょうか。だからこそカスコード接続にはハイμの12AX7などではなく、ハイgmの6DJ8が使われるのです。

ちなみに12AU7でも2mS、12AT7でも5mS程度ですから、いかにカスコード専用球がこの動作に向いているかがわかり、精密になグリッド巻線技術とともに、μ=33という中途半端な値は単なる副産物と感じます。


           


ところで6DJ8などの球が高いgmを持つには15mAくらいプレート電流を流す必要があり、もし低周波増幅でRLを100kΩなどとしたら、そこの電圧降下分だけで1500Vにもなってしまいます。

この時のプレート抵抗による熱損失は22Wですから、セット全体の温度を考えると200Wくらいの抵抗器がプリアンプに必要となり、あまりに非現実といえましょう。


                


そこでゲインの低下は覚悟の上とし、プレート電流を5mA、負荷抵抗も50kΩ程度におさえるならば、電圧降下は250Vとなり、熱損失も1,25Wに収まるため、5W程度の負荷抵抗器使用ですみます。

では実際にカスコード接続とはどのような特性をもっているのか計測してみましょう。計測に使用するのはソブテックの6N1Pです。また図の中でEg2というのは上の球のバイアス電圧です。

カスコード接続時の総合特性カーブなどというのは、めったに発表されないので、これもかなりレアなカーブではないでしょうか。「エッヘン!」


   


特性を見ると若干5極管に似てはいるものの上側のグリッド電圧をプレート電圧が超えるまでプレート電流がまったく流れず、肩特性も傾斜を持った、かなり特徴的な特性だとわかりました。

gmは10mA付近で6msくらいありますが、5mAでは4msとなります。とりあえず引いてみたロードライン上で180倍のゲインと80V(rmsなら56V)の出力電圧は立派でしょう。

残念ながら下の球の電圧増幅度が低く、上の球のグリッドがアースされていることでP-G帰還の影響が少ないというメリットは、オーディオの高音域ではあまり期待できません。

逆にこの回路は高出力インピーダンスとなり、次段の入力において高域低下を起こすことの方が大きな問題となります。


            


そこで内部抵抗を下げ、低負荷抵抗とした大電流方式は有利でしょう。またEg2を上げてゆくと電流は増えるものの全体が右にシフトして電圧利用率が悪くなってしまいます。

この辺が5極管と大きく違うところですが、動作が5極管と似ている紛らわしい部分もあるため、誤解を起こしやすいようです。例えばカスコード回路においてIsgに相当する有効な電流はありません。


               


試しにEg2を160Vまでげて特性を見てみると電流が増え、gm値が上がっても電圧エリアが狭まるため、結局うまく特徴を生かせないような気がします。

この辺はもうすこし最適な利用法を考える必要があるでしょう。

しかしこれこそが、上の球による定電圧回路が存在する証しとなります。即ち上の球のグリッド電圧がほぼ定電圧回路の設定電圧となるため、それ以下のプレート供給電圧では、定電圧回路が作動し始めないわけです。


               


そんな中、なかなか良いロードラインを見つけました。ただしプレート供給電圧は800Vとなり、このサイトをご覧の方々は「カスコードでもまた高圧か・・・。もうウンザリだ!!」と思われるでしょう。

しかしゲインはなんと300倍で、200Vくらいまでスイングできます。直線性はものすごく優れ、プレート電圧の400Vは上の球が300V下の球が100Vと言う内訳のため、なんとかなりそうです。


     
        


このように低周波におけるカスコードはSRPPなどと違い、上下のプレート電圧が大きく異なっても、その役割がぜんぜん違うので、一向に構わないのです。

一方で高周波における活用となると、P-G帰還の影響や、RLがコイルなので電圧降下の影響がなくなるなど、そのメリットが生かされ、さらにFMならばクリップしても関係ないので大活躍というわけです。

今回は低周波カスコードの基本的な部分だけを取り上げましたが、上側の球のグリッド電流はどうなっているのか、特徴的な肩特性の理由は何かなども含め検証を行いたいと思います。


つづく




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