その4 動作原理を考察してみる
SLVCCCの原理を究明するには、その実態を観察しながら考えます。まず下のような結線で、A点・B点・C点どこをカットしても電流はストップします。


                   

A点はg1で、0Vなのに電流に影響するのは少しおかしいように思えますが、実はバイアスが無いという事ではなく、「0Vのバイアスをかける」というひとつの意味を持った状態を示しています。

例えば3極管接続の6BQ5の特性カーブ(下の図)を見ると、−2V〜−4Vや−4V〜−6Vの間隔に比べて、0V〜−2Vの間隔がかなり広くなっている事が分ります。

つまり、バイアス電圧0Vというのは、とてもカソードから電子が飛び出しやすく、かつグリッド電流が流れるような流れないような、ある意味特殊な条件といえます。


          


またB点はg2で、通常のSLVCCCではプレートよりかなり高電圧に設定されるため、カソードからの電子流は、ほとんどg2に流れてしまうと推察できます。(下の図左側)

実際g3につながるC点を切断してしまうと、低電圧における定電流現象は起きません。これはg3をカソードに接続しても同じです。しかしC点にg2と同じ電圧をかけると、プレート電流が流れ始めるのです。

そこで、g3がg2とほぼ同電位の時、「直列グリッド電界」といったものが発生し、それが極めて低いプレート電圧におけるプレート電流を発生させているのではないかと推理しました。(下の図右側)

この「直列グリッド電界」は、電子に対する誘引力こそg2並にあるものの、電極ではなく電界であるため電子に対する拘束力が弱く、僅かなプレート電圧でもここから電子がプレートに引き付けられてしまうと言うわけです。

よって第1の仮説は、「低い電圧でもプレート電流が流れるのは、直列グリッド電界の存在によるものである。」となります。


        


次に、SLVCCCにおける特性カーブのうねり傾向を検証します。サンプルは6EJ7と6EH7で、分りやすくするためにカーブを一定のプレート電圧ごとに4分割してみます。

まずA区間はプレート電圧の上昇によるプレート電流の増加ですが、5極管特性とは異なり、最初からスロープが別かれています。つづくB区間は増加が鈍り、さらにC区間では電流の減少、つまりエザキダイオードのように負性抵抗を示します。これらは両方の球のおなじ位置で発生しています。

またグリッド電圧を変化させても各区間の電圧範囲は変わらず、さらに6EJ7と6EH7共通の現象でもあることから、うねり傾向はグリッド電圧とは無関係で、真空管の内部構造に原因があると推察できます。

なぜならg1を一定ピッチで巻いた6EJ7と、可変ピッチで巻い6EH7では、g1以外の電極条件が酷似しているからで、同様な事は、似た構造の6AU6と6BA6の間でも確認できています。

よって第2の仮説は、「特性カーブがうねるプレート電圧の位置は、プレートとg2およびg3の電極配置で決定される。」となります。


  


さらに第3の課題である、プレート電流のうねりが起こる理由を考えてみると、ちょうどこの電圧で、電子がプレートから跳ね返り易くなる、つまり2次電子が出易くなる現象が起きるのではないでしょうか。

なにしろ低いプレート電圧の世界なので、プレートが電子を完全に受け止めるのには無理があるのです。そして電子の跳ね返りやすいスピードは、プレート電圧と、「直列グリッド電界」の距離で決定されるのでしょう。

こうしてプレート周辺に、跳ね返った電子によるビーム層(マイナスの電気層)が形成され、あたかもプレート電圧が低下したようになります。またグリッド電圧が上がってプレート電流が上昇すると、ビーム層もおなじパーセンテージで強化されます。

よって第3の仮説は「電流特性をうねらせているのは、特定のプレート電圧における跳ね返り(2次)電子のビーム層によるものである。」となります。

ちなみに、跳ね返り電子と2次電子両方の名称を使っているのは、通常の2次電子とは、後から来た電子にプレート内の電子がはじき出されて発生するものを含めるのに対し、この場合プレートに行こうとした電子がそのまま跳ね返ったようなイメージがあったからです。・・・当然見て来たわけではありません。


                    


このように、SLVCCCは電極間に出現する、電界構造によって特性が決定される特殊な使用方法であり、それゆえ球の構造が大きく関与しているといえます。

ですから6EJ7の10Vあたりにある電流の谷間は、残念ながら取り除くことが出来ないのではないかと思われます。

しかし、もしこの発見が1930年代に行われていたなら、低電圧定電流専用構造の球が開発され、PPアンプ用初段回路のスタンダードが変わっていたかもしれません。





他方7極管の起用によって、さらなる特性の改善があれば、それなりに面白そうですが、もしあまりに結線が複雑になるとしたら、単一素子としての魅力に欠けます。

とりあえず残された手段は、すでに製造された5極管で、偶然SLVCCCに最適構造のものを探し出すという事になりますが、それもまた楽しからずや、といったところでしょうか。

以上がSLVCCCのおおざっぱな理屈づけです。もちろんこれらの解説は、すべて病院のベッドで思い着いた、都市伝説にも通ずる「仮説の上に立つ仮説的読みもの」であるとご理解ください。

また「直列グリッド電界」は造語でして、本来別の名称があるのかもしれません。とここまで書いた時、今までの過程に、SLVCCC向けの真空管を探すヒントがありそうだと気付きました。


つづく










        超低電圧定電流接続
super low voltage constant current connection
その1 これは新たな発見なのか?
その2 実用性と汎用性について
その3 ハイgm管での動作例
その4 動作原理を考察してみる
その5 さらなる汎用性を確認する