特性向上に向けて
周波数特性を向上させるため、まず行ったのは出力コンデンサーのフロートです。具体的には3mmのベーク板をコンデンサの下に敷き、プラスチックネジで固定するというものです。

またコンデンサーの外部は10KΩを経てシャーシに結線しました。しかしその結果、高域に不安定な発振が起きてしまったのです。

とりあえずプレートにパラ止め抵抗や、グリッドに2kΩ程度の抵抗を挿入しましたが、効果はありませんでした。


           


発振は無信号時ではなく、20kHzくらいの信号を入れた時、寄生振動のように発生します。もしかしたら6階立てのケミコンにより、高域で電源インピーダンスが上昇した結果、高域の出力低下が起きているのかもしれません。

そこで0,1μF4000Vのフィルムコンデンサを、出力段およびドライバー段のケミコンに並列接続すると、寄生発振はぴたりと止まり,、最終的な電源は下のようになりました。





そしてその時の周波数特性が下のグラフです。高域カットオフは31kHzまで上昇し、なんとかプレートチョーク方式の面目躍如となりました。ケミコンの高域インピーダンスは、6段直列ともなると周波数特性にも影響を与えていたのです。


     


時折「ケミコンにオイルコンを抱かせると良い。」という話を聞くと、今回はその極端な例なのだと感じます。しかし直列接続させない使用環境では、あまり問題視する必要はないかもしれません。

コンデンサーの設置とは関係ないと思われる歪率も、10W以下で若干カイゼンされました。ダンピングファクターは予定の6,25よりも低く、5,6となりましたが完全無帰還アンプとしては、なかなかイイ線を行ってます。

また私の変なこだわりである「ヒーター電力並の出力」も充分クリアできています。


      


さっそく4CX-250Kにも同様のことを行ってみます。その意味で最近時々出ている4kV程度の高圧チューブラー型フィルムコンデンサは、高派にとって非常に便利なグッズです。

また出来上がりを見るかぎり、重量及び部品量から2000Vは実用性の限界を僅かに超えていると感じました。かといって別電源から2000Vを引き回すのは、あまり気が進みません。

今後ステレオ仕様とするため更にもう1台作るのですが、2000VのHVTCが証明できた事により、これでひとまず中ジメとしましょう。


          
             4kV 0,1μF たくさん買い込んでいたので助かりました


それにしても70Wの、純粋A1級3極管接続シングルアンプが、わずか2個の能動素子(2球)で完結してしまうのは爽快です。しかも特別な事はやらず、教科書に書いてあるような基本的回路のみで実現します。

つまりこのアンプを作った私がエライのではなく、これらの真空管を作った人々が、どれだけ偉く素晴らしかったかが、良くわるかと思います。

コンデンサーを排除するために、たくさんのカレントミラーや差動増幅、定電流負荷が、複雑に絡み合って出てきた音。それは全段直結ではあっても多くの能動素子が連動し経由していることを忘れてはいけません。


           
         フィラメント用SW電源とフロートしたチョークコイル、及び電源トランス


オーディオ界における「直結」の定義とは、「AとBはその間に半導体が介在して、直接つながってはいないが、コンデンサーやトランスは入り込んでいない。」というだけのことで、本来の直結である蓄音機やクリスタルカートリッジの音をクリスタルイヤホンで聴いていた時(懐かしい)とは異なるのです。

受動素子であるコンデンサーを減らさんがために、能動素子の数を増やすのを見て、「ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり。」という川柳が頭をかすめます。

HVTCは技術というより一般常識に逆らう自然科学的概念なので、中世の歴史を省みれば、その認識が広まるには更に時間がかかるかもしれません。

紀元前にギリシャから始まった天文学や自然科学は、その後1200年にわたり、バイブルによって封印されてきました。

その間イスラム社会が翻訳を繰り返し、これらの知識を大切に継承していたのです。

そして13世紀のヨーロッパにおいて、科学者たちがその呪縛から解放されたように、規格表というバイブルに対し、新しい風が吹くことを期待します。





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その7
1 最適動作点と動作方法を探る
2 独立型アンプとグリッドチョークの改造
3 電源回路とパーツレイアウト
4  ドライバーのカイゼンと部品配置
5、実作に向けて爆発の時代
6、実作に向けて計測の時代
7、特性向上に向けて
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